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五〇四

〔硫黄いろした天球を〕

一九二五、四、二、

硫黄いろした天球を
煤けた雲がいくきれか翔け
肥料倉庫の亜鉛の屋根で
鳥がするどくひるがへる
最后に湿った真鍮を
二きれ投げて日は沈み
おもちゃのやうな小さな汽車は
教師や技手を四五人乗せて
東の青い古生山地に出発する
  ……大豆まめの玉負ふその人に
    希臘古聖のすがたあり……
積まれて酸える枕木や
けむりのなかの赤いシグナル

(本文=下書稿3)



(下書稿2推敲後)

五〇四

天球図

一九二五、四、二、

琥珀いろした天球を
煤けた雲がいくきれか翔け
肥料倉庫の亜鉛の屋根で
鳥がするどくひるがへる
  ……風と羽とのそのほのじろいラヴバイト……
最后に湿った真鍮を
二きれ投げて日は群青の山に落ち
おもちゃのやうな小さな汽車は
その一一の峡谷の つましい妻に帰って行く
教師や技手を四五人乗せて、
東の青い古生山地に出発する
  ……木炭をになへるその人に
    希臘古聖のすがたあり……
積まれて酸える枕木や
けむりのなかの赤いシグナル



(下書稿2推敲前)

五〇四

天球図

一九二五、四、二、

ビールいろの天球を
煤けた雲がいくきれか翔け
肥料倉庫の亜鉛の屋根を
鳥が矢形にひるがへる
  ……風と羽とのそのほのじろいラヴバイト……
最后に湿った真鍮を
二きれ投げて日は群青の山に落ち
おもちゃのやうな小さな汽車は
わづかな青いけむりを吐いて
その一一の峡谷の つましい妻をかんがへてゐる
幾人かの教師や技手を乗せて、
東の青い古生山地に出発する
  ……木炭をになへるその人に
    希臘古聖のすがたあり……
積まれて酸える枕木や
けむりのなかの赤いシグナル



(下書稿1推敲後)

五〇四

天球図

一九二五、四、二、

黄いろに澱む春の天球を
幾流の黒雲が乱れてながれ
積まれて酸える枕木や
あわただしい植民小屋の屋根の上に
鳥は矢羽根のかたちをなしてひるがへり
  ……風と羽とのそのほのじろい 戯噛ラヴバイト……
おしまひのしめった古金の二きれを残して
陽は山脉の上のつめたい巻層雲に陥ち
その一一の峡谷のつつましい妻を考へてゐる、
数人の教師や役人をのせて
小さな汽車はいま暮れかゝる古生山地に出発する
  ……村農希臘古聖のごとく面皺み……
いよよ潜まるアラゴナイトの天椀を
いくむらよぎる黒雲の列



(下書稿1推敲前)

五〇四

天球図

一九二五、四、二、

黄いろに澱む春の天球を
幾流の黒雲が乱れてながれ
積まれて酸える枕木や
あわただしい植民小屋の屋根の上に
鳥は矢羽根のかたちをなしてひるがへり
  ……風と羽とのそのほのじろい Love-bite……
おしまひのしめった古金の二きれを残して
陽は山脉の上のつめたい巻層雲に陥ち
そのつつましい恋びとのことを考へながら
小さな汽車は暮れかゝる古生山地に出発する
  ……村農ソークラテースのごとくに面皺み……
いよよ潜まるアラゴナイトの天椀を
いくむらよぎる黒雲の列