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四一五

〔暮れちかい 吹雪の底の店さきに〕

一九二五、二、一五、

暮れちかい
吹雪の底の店さきに
萌黄いろしたきれいな頚を
すなほに伸ばして吊り下げられる
小さないちはの家鴨の子
   ……屠者はおもむろに呪し
     鮫の黒肉はわびしく凍る……
風の擦過の向ふでは
にせ巡礼の鈴の音

(本文=下書稿3)



(下書稿2推敲後)

四一五

四聖諦

一九二五、二、一五、

雪を穿った洞の奥
暮れちかい
吹雪の底の半分暮れた店さきに
小さないちはの家鴨の子が
すなほに伸ばして絞められ吊り下げられる
   ……屠者はおもむろに呪し
     鮫の黒肉はわびしく凍る……
粉雪のいく度の擦過のなかから
遍歴公子の巡礼に出た百姓たちの鈴のひびきがきこえてくる



(下書稿2推敲前)

四一五

四聖諦

一九二五、二、一五、

吹雪フキの底
昏んだ風の店さきで
  萌黄いろしたきれいな頚を
すなほに絞められ吊るされた、いちはの家鴨ツアーメンテである
   ……屠者はおもむろに呪し
     鮫の黒肉は凍る……
粉雪のいく度の擦過のなかから
巡礼たちの鈴のひびきがきこえてくる



(下書稿1推敲後)

四一五

魚商

一九二五、二、一五、

両手を組んでごちっと鳴らし
店を一ぺん目測し
台のはじから手かぎをとって
あかをと鱈を置き直し
わかめの束を重ねれば

吹雪が飛んで吹雪が飛んで
つるした家鴨はぶらぶらゆれ
土間では鮫の黒肉は凍る

もんぱ帽子の絣の合羽
  ……(帰命頂礼地蔵尊)
鈴を鳴らしたにせ巡礼に
五厘やらうと五厘をさがし
一銭やって追ひ払ひ
やっと火鉢に戻って来れば

吹雪が飛んで吹雪がとんで
つるした家鴨ははげしくうごき
鮫の黒肉もあかをも凍る



(下書稿1推敲前)

四一五

魚舗

一九二五、二、一五、

まづは首尾よく家鴨を締めて
萌黄いろしたその頚を
きれいに撫でて軒の釣り
両手を組んでごちっと鳴らし
店を一ぺん目測し
台のはじから手かぎをとって
あかをと鱈を置き直し
わかめの束を重ねれば
吹雪が飛んで吹雪が飛んで
つるした家鴨はぶらぶらゆすれ
土間では鮫の黒肉は凍る
もんぱ帽子の絣の合羽
  ……(帰命頂礼地蔵尊)
鈴を鳴らしたにせ巡礼に
五厘やらうと五厘をさがし
一銭やって追ひ払ひ
やっと火鉢に戻って来れば
吹雪が飛んで吹雪がとんで
つるした家鴨ははげしくうごき
鮫の黒肉もあかをも凍る