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四〇八

〔寅吉山の北のなだらで〕

一九二五、一、二五、

寅吉山の北のなだらで
雪がまばゆいタングステンの盤になり
山稜の樹の昇羃列が
そこに華麗な像をうつし
またふもとでは
枝打ちされた緑褐色の松並が
弧線アークになってうかんでゐる

恍とした佇立のうちに
雲はばしゃばしゃ飛び
風は
中世騎士風の道徳をはこんでゐた

(本文=定稿)



(下書稿2推敲後)

四〇八

昇羃

一九二五、一、二五、

寅吉山の北のなだらで
雪がまばゆいタングステンの盤になり
山稜の樹の昇羃列が
そこに藍碧の像をうつし
またふもとでは
枝打ちされた緑褐色の松並が
弧線アークになってうかんでゐる

恍とした佇立のうちに
雲はばしゃばしゃ飛び
風は
中世騎士風の道徳をはこんでゐた



(下書稿2推敲前)

四〇八

昇羃銀盤

一九二五、一、二五、

寅吉山の北のなだらで
雪がまばゆい銀盤になり
山稜の樹の昇羃列が
そこに立派な影をうつし
またふもとでは
枝打ちされた緑褐色の松並が
弧線アークになってうかんでゐる

恍とした佇立のうちに
雲はばしゃばしゃ飛び
風は
中世騎士風の道徳をはこんでゐた



(下書稿1)

四〇八

昇羃銀盤

一九二五、一、二五、

寅吉山の北のなだらで
雪がまばゆい銀盤になり
山稜の藍いろの木の昇羃列が
そこに立派な像をうつし
またふもとでは
枝打ちされた緑褐色の松並が
アークになってうかんでゐる

恍とした佇立のうちに
雲はばしゃばしゃ飛び
風は
中世騎士風の道徳をはこんでゐた



(雑誌『銅鑼』掲載用原稿)

心象スケッチ

昇羃銀盤

宮沢賢治

寅吉トラキチ山の北のなだらで
雪がまばゆい銀盤になり
山稜の藍いろの木の昇羃列が
そこに立派な像をうつし
またふもとでは
枝打ちされた緑褐色の松並が
アークになってうかんでゐる

恍とした佇立のうちに
雲はばしゃばしゃ飛び
風は
中世騎士風の道徳をはこんでゐた



(雑誌『銅鑼』掲載形 1926年1月1日)

昇羃銀盤

寅吉トラキチ山の北のなだらで
雪がまばゆい銀盤になり
山稜の藍いろの木の昇羃列が
そこに立派な像をうつし
またふもとでは
枝打ちされた緑褐色の松並が
弧になつてうかんでゐる
恍とした佇立のうちに
雲はばしやばしや飛び
風は
中世騎士風の道徳をはこんでゐた