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三五六

旅程幻想

一九二五、一、八、

さびしい不漁と旱害のあとを
海に沿ふ
いくつもの峠を越えたり
萱の野原を通ったりして
ひとりここまで来たのだけれども
いまこの荒れた河原の砂の、
うす陽のなかにまどろめば、
肩またせなのうら寒く
何か不安なこの感じは
たしかしまひの硅板岩の峠の上で
放牧用の木柵の
楢の扉を開けたまゝ
みちを急いだためらしく
そこの光ってつめたいそらや
やどり木のある栗の木なども眼にうかぶ
その川上の幾重の雲と
つめたい日射しの格子のなかで
何か知らない巨きな鳥が
かすかにごろごろ鳴いてゐる

(本文=下書稿2推敲後)



(下書稿2推敲前)

三五六

旅程幻想

一九二五、一、八、

海岸に沿ひ
いくつもの峠を越えて
ひとりここまで来たのだけれども
いまこの荒れた河原の砂にまどろめば、
たしかしまひの硅板岩の峠の上で
ひのきづくりの白い
閉じなかったのか或ひはわざと横をまはって来たらしく
そこの光ってつめたいそらや
やどり木のある栗の木なども眼にうかぶ
いま川上の黒雲と
つめたい日射しの格子のなかで
かすかに雷が鳴ってゐて
みちは南の地平まで
はてない割木の柵をつらねる



(下書稿1推敲後)

三五六

旅程幻想

一九二五、一、八、

海岸に沿ひ
いくつもの峠を越えて
ひとりここまで来たのだけれども
いまこの白い河原の砂でまどろみながら
恍惚として考へ出すと
どうも最后のひのきづくりの白い
閉じなかったのか
あるひはわざと
横をまはってきたらしく
そこの光ってつめたいそらや
やどり木のある栗の木などが眼にうかび
何かゞひどくわたくしを責める
川上は雪
みちに沿ふ枯木の柵は
地平線までつゞいてゐる
もうわたくしははやく帰らう



(下書稿1推敲前)

三五六

旅程幻想

一九二五、一、八、

海触された山地の縁に沿ひ
いくつもの白い岩の峠を越えて
ここまで来たのだけれども
いまこの草地の銀のなかからかんがへて見ると
どうもしまひひのきづくりの白い
閉めなかったのか
あるひは通らなかったかららしい
そこのちいさなつめたいそらや
やどり木のある五本の栗の木も見える
雪雲はめぐり
みちに沿ふ枯木の柵は
みなまっ黒な影を落して
地平線まで続いてゐる