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三三八

異途への出発

一九二五、一、五、

月の惑みと
巨きな雪の盤とのなかに
あてなくひとり下り立てば
あしもとは軋り
寒冷でまっくろな空虚は
がらんと額に臨んでゐる
   ……楽手たちは蒼ざめて死に
     嬰児は水いろのもやにうまれた……
尖った青い燐光が
いちめんそこいらの雪を縫って
せはしく浮いたり沈んだり
しんしんと風を集積する
   ……ああアカシヤの黒い列……
みんなに義理をかいてまで
こんや旅だつこのみちも
じつはたゞしいものでなく
誰のためにもならないのだと
いままでにしろわかってゐて
それでどうにもならないのだ
   ……底びかりする水晶天の
     一ひら白い裂罅ひゞのあと……
雪が一さうまたたいて
そこらを海よりさびしくする

(本文=下書稿3)



(下書稿2)

三三八

異途への出発

一九二五、一、五、

月の惑みと
巨きな雪の盤とのなかに
あてなくひとり下り立てば
あしもとは軋り
寒冷でまっくろな空虚は
がらんと額に臨んでゐる
   ……楽手たちは蒼ざめて死に
     嬰児は水いろのもやにうまれた……


※上記を下書稿3の該当場所まで貼り込んでいる。



(下書稿1推敲後)

三三八

異途への出発

一九二五、一、五、

月の惑みと
巨きな雪の盤とのなかに
あてなくひとり下り立てば
あしもとは軋り
寒冷でまっくろな空虚は
がらんと額に臨んでゐる
   ……楽手たちは蒼ざめて死に
     嬰児は水いろのもやにうまれた……
グラウンドの雪いちめんに
たくさんのたくさんの尖った青い燐光が
そんなにせはしく浮沈すれば
わたくしはとめどなく泪がながれる
   ……アカシヤの木の黒い列……
みんなに義理を欠いてまで、気負った旅に出るといっても
結局荒んだ海辺の原や
林の底の渦巻く雪に、からだをいためて来るだけだから
ほんたうはもうどうしていいかわからない
   ……底びかりする水晶天の
     ひとひら白い裂罅です……
雪がいっさううつくしくきらめいて
あくまでわたくしをかなしくする



(下書稿1推敲前)

三三八

異途への出発

一九二五、一、五、

月の惑みと
巨きな雪の盤とのなかに
はかなくひとり下り立てば
あしもとは軋り
寒冷でまっくろな空虚は
がらんと額に臨んでゐる
   ……楽手たちは蒼ざめて死に
     こどもは水いろのもやのなかにうまれた……
夜の雪花石膏板に
たくさんのたくさんの尖った青い燐光が
そんなにせはしく浮沈すれば
ああ、とめどなく泪がながれる
   ……アカシヤの木の黒い列……
みんなに義理を欠いてまで旅に出るといっても
海岸の荒んだ野原や
渦巻く雪にさらされるばかりなのだから
じつはどうしていいかもわからないのだ
   ……底びかりする水晶天の
     ひとひら白い裂罅さけめです……
雪の晶片がいっさうちかちか青くひかって
あくまでわたくしをかなしくする