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三三一

凍雨

一九二四、一〇、二四、

つめたい雨も木の葉も降り
町へでかけた用タシたちも
背蓑ケラをぬらして帰ってくる
  ……凍らす風によみがへり
    かなしい雲にわらふもの……
牆林ヤグネは黝く
上根子堰の水もせゝらぎ
風のあかりやおぼろな雲に洗はれながら
きゃらの樹が塔のかたちにつくられたり
崖いっぱいの萱の根株が
妖しいべにをくゆらしたり
  ……さゝやく風に目を瞑り
    みぞれの雲にあえぐもの……
北は鍋倉円満寺
南は太田飯豊笹間
小さな百の組合を
凍ってめぐる白の天涯

(本文=定稿)



(「現代日本詩集」発表形)

県道

つめたい雨も木の葉も降り
町へでかけた用タシたちも
半蓑ケラをぬらして帰つてくる
  ……凍らす風によみがへり
     かなしい雲にわらふもの……
牆林ヤグネは黝く
上根子堰かみねこぜきの水もせせらぎ
風のあかりやおぼろな雲に洗はれながら
きやらの木が塔のかたちに刈りつまれたり
崖いつぱいの萱の根株が
あやしいべにをくゆらしたり
  ……さゝやく風に目をつむり
    みぞれの雲に喘ぐもの……
北は鍋倉なべくら円満寺
南は太田飯豊いひどよ
小さな百の組合を
凍つてめぐる白の天涯



(下書稿3)

三三一

凍雨

一九二四、一〇、二四、

つめたい雨も木の葉も降り
町へでかけた用タシたちも、けらをぬらして帰ってくる
  ……凍らす風によみがへり
    かなしい雲にわらふもの……
牆林ヤグネは黝く
上根子堰の
風のあかりやおぼろな雲に洗はれながら
きゃらの樹が塔のかたちにつくられたり
崖いっぱいの萱の根株が、妖しい紅にけむったり
  ……さゝやく風に目を瞑り
    みぞれの雲にあえぐもの……
北は鍋倉円満寺、南は太田飯豊の
小さな百の組合を
凍ってめぐる白の天涯



(下書稿2推敲後)

三三一

凍雨

一九二四、一〇、二四、

つめたい雨も木の葉もふり
みんなはけらの肩をすぼめてぬれた郡道を帰ってくる
  ……凍らす風によみがへり
    かなしい雲にわらふもの……
家ぐねは黝く
上根子堰の水もひからず
風のあかりやおぼろな雲に洗はれながら
きゃらの樹が塔のかたちにつくられたり
厩舎うまやのまへでトマトが青く腐ったりする
凍らす風に目を瞑り
みぞれの雲にあえぐもの
北は鍋倉円満寺
南は太田飯豊笹間
小さな百の組合を
凍ってめぐる天涯と
妖しいべにをくゆらせる
萱の根かぶの花青素のむら



(下書稿2推敲前)

三三一

凍雨

一九二四、一〇、二四、

つめたい雨も木の葉もふり
みんなはけらを着て急ぐ
  ……凍らす風によみがへり
    かなしい雲にわらふもの……
林は黝く
上根子堰の水もひからず
風のあかりやおぼろな雲に洗はれながら
きゃらの樹が塔のかたちにつくられたり
厩舎うまやのまへでトマトが青く腐ったりする
   北は鍋倉円満寺
     南は太田飯豊笹間
小さな百の組合を
凍ってめぐる天涯と
妖しいべにをくゆらせる
萱の根かぶの花青素のむら
   ……雲にすれすれ一むれの鳥……



(下書稿1推敲後)

三三一

凍雨

一九二四、一〇、二四、

つめたい雨も木の葉もふり
みんなはけらで行き急ぐ
  ……凍らす風によみがへり
    縮れた雲にわらふもの……
林は黝くすゝきのまはらな穂もひらかず
風のあかりやおぼろな雨にあらはれながら
きゃらの木が塔のかたちにつくられたり
うまやのまへでトマトが青く腐ったりする
北は鍋倉円満寺
南は太田飯豊笹間

渡りのむくのひと群が
雨やエレキに溶かされて
きれいな白い骨ばかり

雲にすれすれその天末の氷の環に翔けて行く



(下書稿1推敲前)

三三一

凍雨

一九二四、一〇、二四、

つめたい雨も木の葉もふり
みんなはけらを着て急ぐ
  ……凍らす風によみがへり
    かなしい雲にわらふもの……
樹林は黄ばみ
すゝきのまばらな穂もひらかず
雨やおぼろな雲にあらはれながら
いちゐの木で塔のかたちがつくられたり
梢の上でトマトが赤く熟したりする

陰湿なこゝらの風象の底に
あやしいげんげの花簇をひろげ
春のピンクをけぶらすものは
萱の根かぶの花青素です