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三二九

〔野馬がかってにこさえたみちと〕

一九二四、一〇、二六、

野馬がかってにこさえたみちと
ほんとのみちとわかるかね?

なるほどおほばこセンホイン
その実物もたしかかね?

おんなじ型の黄いろな丘を
ずんずん数へて来れるかね?

その地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる?

泥炭層の伏流が
どういふものか承知かね?

それで結局迷ってしまふ
そのとき磁石の方角だけで
まっ赤に枯れた柏のなかや
うつぎやばらの大きな藪を
どんどん走って来れるかね?

そしてたうたう日が暮れて
みぞれが降るかもしれないが
どうだそれでもでかけるか?

はあ さうか

(本文=定稿)



(下書稿4)

三二九

遠足許可

一九二四、一〇、二六、

野馬がかってにこさえたみちと
ほんとのみちとわかるかね?

なるほどおほばこセンホイン
その実物もたしかかね?

おんなじ型の黄いろな丘を
ずんずん数へて来れるかね?

その地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる?

泥炭層の伏流が
どういふものか承知かね?

それで結局迷ってしまふ
そのとき磁石の方角だけで
まっ赤に枯れた柏のなかや
うつぎやばらの大きな藪を
どんどん走って来れるかね?

そしてたうたう日が暮れて
みぞれが降るかもしれないが
どうだそれでもでかけるか?

はあ さうか



(下書稿3)

三二九

遠足許可

一九二四、一〇、二六、

野馬がかってにこさえたみちと
ほんとのみちがどうしてわかる?

では おほばことセンホイン
その実物がわかるかね?

おんなじ型の黄いろな丘を
ずんずん数へて来れるかね?

その地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる?

泥炭層の伏流に
いきなりどんとおっこちる
さういふこともいのかね?

みちがだんだんおかしな方へまはったら
方角だけで
まっ赤に枯れた柏のなかや
うつぎやばらの大きな藪を
どんどん走って来れるかね?

そして結局日が暮れて
みぞれが降るかもしれないが
どうだ それでも でかけるか。

  はあさうか。



(「文芸プランニング」発表形 1930年11月1日)

遠足許可

ぜんたいきみは
野馬がかってにこさえたみちと
ほんとのみちが分かるかね?
おほばこと
センホインといふ草を知ってゐるかね?
おんなじ型の黄いろな丘
ずんずん数へて来れるかね?
地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる?
泥炭層の伏流をご承知かね?
しまひは磁石の方角だけで
まっ赤に枯れた柏のなかや
うつぎやばらの大きな藪を
どんどん走って来れるかね?
そしてたうとう日が暮れて
みぞれが降るかもしれないが
さういふことも覚悟の前か?
はあ さうか



(下書稿2推敲後)

三二九

遠足許可

一九二四、一〇、二六、

ぜんたいきみがリーダーなんて
野馬がかってにこさえたみちと
ほんとのみちがどうしてわかる?
なるほどおほばこセンホインその実物を知ってるか
そんならきみはほんとのみちがぼんやり消えてしまったとき
あとをどうしてやってくる
あすこらへんのおんなじ型の黄いろな丘を
どこで見分けるかんがへだ
その地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる
泥炭層の伏流をご承知かね
しまひはきっと磁石もなげだして
まっ赤に枯れた柏の中や
うつぎやばらの大きな藪を
血相かへて走ってくる
なるほど悲壮な決心だ
そしてたうたう日が暮れて
みぞれが降って倒れてしまふ
どうだそれでもでかけるか
ははあなるほどいゝだらう
次の日ぼくが救援隊できみらをみつけたとき
合はせる顔はいったいどういふ顔だとおもふ
ははあなるほど
まあその顔のつゞきだな
けれどもどうだ
きみらの方が救援隊にまはったら
仕事がもっと片づいたら
ぼくが第一でかけるから
ははあきみらもついて行く
ではまをひとつさうしやう
そんならあしたはやめたまへ
解散



(下書稿2推敲前)

三二九

遠足許可

一九二四、一〇、二六、

ぜんたいきみは
野馬がかってにこさえたみちと
ほんとのみちを見分かるかね
おほばことセンホインといふ草を知ってゐるかね
おんなじ型の黄いろな丘を
ずんずん数へて来れるかね
地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる
泥炭層の伏流をご承知かね
みちがだんだんおかしな方へ廻ったら
方角だけで
まっ赤に枯れた柏の中や
うつぎやばらの大きな藪を
どんどん走って来れるかね?
そしてたうたう日が暮れて
みぞれが降るかもしれないが、そのとききみはどうするね
はあ さうか



(下書稿1推敲後)

三二九

遠足許可

一九二四、一〇、二六、

柳沢から小岩井へ出る?
そんならきみは馬のあるいたみちと
ひとのあるいたみちの見分けをつけられるかね
おほばことセンホインといふ草を知ってゐるかね
おんなじ型の黄いろな丘をずんずん数へて来れるかね
地図にある防火線とない防火線が見分かるかね
まっ赤に枯れた柏の中や
わらびの葉だのすゞらんの実だの
どんどん走って来れるかね
泥炭地の伏流を承知かね
岩手山の雲をかぶったまばゆい雪から
風をもらって帽子をふるだけ余裕をもってゐれるかね
いよいよわけがわからなくなって
大やけくそに小岩井はどっちだと叫んで
いきなりそこらの林から
縄などもってまっ黒な人が飛びだしたとき
きみはどぎまぎしないかね
はあさうか



(下書稿1推敲前)

三二九

母に云ふ

一九二四、一〇、二六、

馬のあるいたみちだの
ひとのあるいたみちだの
センホインといふ草だの
方角を見やうといくつも丘にのぼったり
まちがって防火線をまはったり
がさがさがさがさ
まっ赤に枯れた柏の下や
わらびの葉だのすゞらんの実だの
陰気な泥炭地をかけ抜けたり
岩手山の雲をかぶったまばゆい雪から
風をもらって帽子をふったり
しまひにはもう
まるでからだをなげつけるやうにして走って
やっとのことで
南の雲の縮れた白い火の下に
小岩井の耕耘部の小さく光る屋根を見ました
萱のなかからばっと走って出ましたら
そこの日なたで七つぐらゐのこどもがふたり
雪ばかまをはきけらを着て
栗をひろってゐましたが
たいへんびっくりしたやうなので
わたくしもおどろいて立ちどまり
わざと狼森はどれかとたづね
ごくていねいにお礼を云ってまたかけました
それからこんどは燧堀山へ迷って出て
さっぱり見当がつかないので
もうやけくそに停車場はいったいどっちだと叫びますと
栗の木ばやしの日陽しのなかから
若い牧夫がたいへんあわてゝ飛んで来て
わたくしをつれて落葉松の林をまはり
向ふのみだれた白い雲や
さわやかな草地の縞を指さしながら
詳しく教へてくれました
わたくしはまったく気の毒になって
汽車賃を引いて残りを三十銭ばかり
お礼にやってしまひました
それからも一度走って走って
やうやく汽車に間に合ひました
そして昼めしをまだたべません
どうか味噌づけをだしてごはんをたべさしてください