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三一四

〔夜の湿気と風がさびしくいりまじり〕

一九二四、十、五、

夜の湿気と風がさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
そらには暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるえてゐる

(本文=定稿)



(下書稿4推敲後)

三一四

業の花びら

一九二四、十、五、

夜の湿気と風がさびしくいりまじり
松とやなぎの林はくろく
そらには暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるえてゐる
あざけるやうに知らないやうに
さぎが遠くで鳴いてゐる
その偶然な二っつが
黄いろな芒で結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり雲にうつったりする



(下書稿4推敲前)

三一四

業の花びら

一九二四、十、五、

夜の湿気と風がさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
そらには暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるえてゐる

それ(一字不明)まさしく(約三字不明)
 ののちは
一つの古い(約九字不明)る
  ……遠くでさぎが鳴いてゐる……
松並木から雫がふり
そらのはるかな高みでは
風もごうごう吹いてゐて
わづかのさびしい星群が
雲から洗ひ出されては
その偶然な二っつが
黄いろな芒で結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり雲にうつったりする


※下書稿3から二枚の紙片を切り出して貼り付け、その後推敲して いる。



(下書稿2推敲後)

三一四

業の花びら

一九二四、十、五、

夜の湿気が風とさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
空には暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるえてゐる
ああ誰か来てわたくしに云へ
億の巨匠が並んで生れ
しかも互ひに相犯さない
明るい世界はかならず来ると
 どこかでさぎが鳴いてゐる
  ……遠くで鷺が鳴いてゐる
    夜どほし赤い眼を燃して
    つめたい沼に立ち通すのか……
松並木から雫がふり
わづかのさびしい星群が
西で雲から洗はれて
その二っつが
黄いろな芒を結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり白くうごいたりする



(下書稿2推敲前)

三一四

業の花びら

一九二四、十、五、

夜の湿気が風とさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
空には暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるえてゐる
  ……遠くで鷺が鳴いてゐる
    夜どほし赤い眼を燃して
    つめたい沼に立ってゐるのか……
松並木から雫がふり
わづかばかりの星群が
西で雲から洗はれて
その偶然な二っつが
黄いろな芒で結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり白くうつったりする



(下書稿1推敲後)

三一四

業の花びら

一九二四、十、五、

夜の湿気と風がさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく、
そらには暗い業の花びらがいっぱいで、
わたくしは神々の名を録したことから、
はげしく寒くふるえてゐる、

  ……遠くでさぎが鳴いてゐる……

松並木から雫がふり
空のどこかを
風もごうごう吹いてゐて
わづかのさびしい星群が
西で雲から洗ひおとされて
その偶然な二っつが
黄いろなのげで結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり雲にうつったりする



(下書稿1推敲前)

三一四

業の花びら

一九二四、十、五、

夜の湿気とむねけがさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
そらには暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるえてゐる
ああたれか来てわたくしを抱け

   しかもいったい
   たれがわたくしにあてにならうか
どんなことが起らうと
わたくしはだまってあるいて行くだけだ

  ……どこかでさぎが鳴いてゐる……

松並木から雫がふり
空のずゐぶん高いところを
風がごうごう吹いてゐる
わづかのさびしい星群が
西で雲から洗ひ出されて
その偶然な二っつが
真鍮ブラスな芒で結んだり
巨きな秋の草穂の影が
残りの雲にうつったりする



(下書稿1追加書込)

菩提皮のマントや縄を結び
いちにちいっぱいの労働に
からだを投げて
みんなといっしょに行くといっても
そのときわれわれには
一つの暗い死が
来るだけだ
あの重くくらい層積雲のそこで北上山地の一つの稜を砕き
まっしろな石灰岩抹の億噸を得て
幾万年の脱滷から異常にあせたこの洪積の台地に与へつめくさの白いあかりもともし
はんや高萱の波をひらめかすと云っても
それを実行に移したときに
ここらの暗い経済は
恐らく微動もしないだらう
落葉松から夏を冴え冴えとし
銀ドロの梢から雲や風景を乱し
まっ青な稲沼の夜を強力の電燈とひまはりの花から照射させ鬼げしを燃し(二字分空白)をしても
それらが楽しくあるためにあまりに世界は歪んでゐる