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一九五

塚と風

一九二四、九、一〇、

      ……わたくしに関して一つの塚とこゝを通過する風とが
        あるときこんなやうな存在であることを示した……

この人ぁくすぐらへでぁのだもなす
   たれかゞ右の方で云ふ
   髪を逆立てた印度の力士ふうのものが
   口をゆがめ眼をいからせて
   一生けんめいとられた腕をもぎはなし
   東に走っていかうとする
   その肩や胸には赤い斑点がある

   後光もあれば鏡もあり
   青いそらには瓔珞もきらめく

   子どもに乳をやる女
   その右乳ぶさあまり大きく角だって
   いちめん赤い痘瘡がある

   掌のなかばから切られた指
   これはやっぱりこの塚のだらうか
   わたくしのではない
柳沢さんのでなくてまづ好がった

   袴をはいた烏天狗だ
   や、西行、
上……見……る……に……は……及……ば……な……い……
や……っ……ぱ……り……下……見……る……の……だ
   つぶやくやうな水のこぽこぽ鳴るやうな

   私の考と阿部孝の考とを
   ちゃうど神楽の剣舞のやうに
   対照的に双方から見せて
そのかっぽれ 学校へ来んかなと云ったのだ

   子どもが二人母にだかれてねむってゐる
いぢめてやりたい
いぢめてやりたい
いぢめてやりたい
   誰かゞ泣いて云ひながら行きすぎる

(本文=下書稿)