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けだもの運動会

〔冒頭原稿一枚?なし〕
「いかん。貴様が勝つにきまってるじゃないか。第一そんなものは社会の風教に害がある。退れ。」
 狐が頭から雷さんをひっかぶったようにびっくりして眼をプルプルさせて少しずつあと戻りして引っ込みました。
「どうも小さいものはいかんね。どうもいかん。おい、虎、象、熊、犀、河馬、お前たちに何か考えがないか。」
 虎がものすごい青い顔をして一足前に出ました。
「おおい。みんな、おれは引き裂き競争がいいと思うよ。これは新案だ。いいか。みんなで拳をして東西にわかれてな、小さいものから順順に一人ずつ組みついて引き裂きをやるんだ。勝った方へは新らしいものがかかるということにしてその中で一番強いのが一等としよう。どうだ。みんな。」
 みんなは思わずじりじりうしろへさがりました。
 獅子はすっかり怒ってしまいました。
「黙れ。虎。身の程知らずめ。貴様の言はいつでもみんなの心をひどくいためる。そんなことをやったら運動会がすんだのちにはけだものがたった一疋だけになってしまうじゃないか。それに貴様は全体おれや象に勝てると思っているのか。身の程知らずめ。許さんぞ。退れ。」
 虎ははじめの威勢はどこへやらからだ中の筋がみな別々にガタガタガタガタ顫え出して白い泡をはいてじりりじりりとしりごみをしてしまいました。
 そこで獅子が空を向いて高く笑いました。
「アッハッハ。虎は今日は何か辛いものを食い過ぎたな。よしよし、許してやろう。」
 そこで象が鼻をぶらぶらさせて云いました。
「これは私の考えでは鉄棒ぶらさがり競争というものはどうだろう。みんな一所に鉄棒に取りついて、それから一番あとに残ったものが一等と、鉄棒に取りつくには指でもいいし肘でもいい又前あし全体でもいいと。こう云うことにする。これならば腕の強い丈夫なものはからだも重い、腕の弱いものはその代りからだも軽いと、こう云うわけでごく公平だろうと思われる。もっともこれは猿が大へん得手のようにも見えるけれどもそれもやって見なければわからないとわたしは思う。」
 獅子は感服して思わず、
「ああ君はさすが違ったもんだ。これは実に名案だ。みんな、どうだ、よかろう。」
 虎や河馬を除いてはみんなもう大喜びです。ことに小さな方の連中などはあんまりよろこんでお互にだきついたりしていました。
 さて運動会の当日になりました。鳥の方からたのんで来た楽隊はブカブカどんどんやっています。
 獅子大王は一段高いところに白い切れをかけた卓子を控えその横には賞品係りの象があちこちから寄附になった賞品を山のようにつみ重ねて座っています。面白い競争には二人とも壇を下りて行って自分らもはいりました。そして競争がすむと大急ぎで戻って来て賞品を渡したりしました。
 さて、二百米も四百米も学術競争もだんだん済んでいよいよ今日の一番の競技がはじまりました。あの鉄棒ぶらさがり競争です。これはけだもの一同やる筈でしたが審判官の豹と賞品係の象と運動会長の獅子だけははいりませんでした。
 長さ三十六間のその鉄棒の下にけだものどもはみな立ちならびました。誰が見てもどうも猿が一等を取りそうでした。猿は自分でもそう思っていてさっきからてぐすね引いて待っていたのでした。
「鉄棒ぶらさがり競争、用意っ。」と獅子が叫びました。
 さあ、虎も熊も河馬麒麟も馬も羊もカンガルーも兎も鼠もみんなじっとその前あしをちぢめて鉄棒を見つめて号令がかかったらすぐにとりつく支度をしました。
「かかれっ。」獅子が叫びました。
 けだものどもはみなほいほいととびつきましたがただ一疋河馬だけは手を外してドタリと落ちてひどく尻餅をつきました。そしてそらを向いてフウフウといきをついたまま起きあがりかねていました。審判官の豹が時計を見ながらせわしくあちこちはせまわりました。
「十秒」豹が叫びました。虎が「ウォーッ。」と一つ吠えました。
「二十秒。」豹が叫びました。虎の手はもうぶるぶるぶるとふるえて来てとうとうばたりと落ちました。それから虎は凄い目付きをして舌を出しながらのそのそみんなの下をあるきまわりましたので、兎や羊などはもう目をつぶっていました。
「三十秒。」豹が叫びました。上でもみんなつかれて来てウンウンうなったり手がぐらぐらしたりしはじめました。
「四十秒」と豹が云いました。「なにくそっ、えいくそっああだめだ。」熊がばたりと落ちました。それからすべて鼻の大きなやつや口の大きなけだものが百疋ばかり一諸にばたばたっと落ちました。
「五十秒」と豹が云いましたら猿がいきなりくにゃりと落ちました。
「六十秒。」と豹が云いましたら麒麟と馬と羊が三疋いっしょに落ちました。
「七十秒。」と豹が叫びましたらカンガルーがクルクルクルッとまわって落ちました。〔以下原稿なし〕