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〔いざ渡せかし おいぼれめ〕

「いざ渡せかし おいぼれめ
いつもこゝにて日を暮らす」
すぱとたばこを吸ひやめて

何を云ふともこの飯の
煮たたぬうちに 立つべしや
芋の子頭白髪して
おきなは榾を加へたり

(本文=下書稿推敲後)



(下書稿推敲前)

(1)

(この枠内には次の一行があり、文語詩を書いた太い鉛筆でメモが記してある。)

鍋の下ではとろとろ赤く火が燃える

   渡し小屋、
   ガラス窓、けむり、
     二人

(2)

「いざ渡せかし おいぼれめ
脚夫は
いつもこゝにて日を暮らす」
すぱとたばこを吸ひやめて

(3)

何を云ふともこの飯の
煮たたぬうちに 立つべしや
芋の子頭白髪して
おきなは榾を加へたり

(4)

(この枠内には、次の口語詩詩句が囲い込まれているが、文語詩化 の手入れはない。)

おもてでは植えたばかりの茄子苗や
芽をだしかけた胡瓜の畑に
陽がしんしんと降ってゐて
下の川では 川上のまだまっ白な岩手山へ 南の風がまっかうに吹き
はりがねもピチピチ鳴れば
せきれいもちろちろ泣いてゐるやうだけれども



※口語詩「〔爺さんの眼はすかんぽのやうに赤く〕」の原稿を文語 詩化しようとしたもの。

下部余白に書かれた口語詩の追加一行を囲って(1)とし、(2) (3)の文語詩を書き、口語詩の一部を囲って(4)としている。

(2)(3)の連を本文とする



(先駆形口語詩「〔爺さんの眼はすかんぽのやうに赤く〕」)

〔爺さんの眼はすかんぽのやうに赤く〕

爺さんの眼はすかんぽのやうに赤く
何かぷりぷり怒ってゐる
白髪はぢょきぢょき鋏でつんだ
いはゆるこゝらの芋の子頭
  ……そんならビタミンのX
    あるひはムチンのY号で
    この赤い眼が療らないか
    それは必ず治ってしまふ……
鍋の下ではとろとろ赤く火が燃える
おもてでは植えたばかりの茄子苗や
芽をだしかけた胡瓜の畑に
陽がしんしんと降ってゐて
下の川では
川上のまだまっ白な岩手山へ
南の風がまっかうに吹き
はりがねもピチピチ鳴れば
せきれいもちろちろ泣いてゐるやうだけれども
条件の悪いことならば
いまよりもっと烈しいときがいくらもあった
この数月はたしかにどこかからだが悪い
  ……そんならビタミンのX
    あるひは乳酸石灰が
    この数月の傾向を
    療治するかと云ふのに
    こっちはそれを呑みたくない……
飯はぶうぶう湯気をふき
白髪の芋の子頭を下げて
ぢいさんは木を引いてゐる