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森の上のこの神楽殿
いそがしくのぼりて立てば
かくこうはめぐりてどよみ
松の風頬を吹くなり

野をはるに北をのぞめば
紫波の城の二本の杉
かゞやきて黄ばめるものは
そが上に麦熟すらし

さらにまた夏雲の下、
青々と山なみははせ、
従ひて野は澱めども
かのまちはつひに見えざり

うらゝかに野を過ぎり行く
かの雲の影ともなりて
きみがべにありなんものを

さもわれののがれてあれば
うすくらき古着の店に
ひとり居て祖父や怒らん
いざ走せてこととふべきに

うちどよみまた鳥啼けば
いよいよに君ぞ恋しき
野はさらに雲の影して
松の風日に鳴るものを

(本文=下書稿推敲後)



(下書稿推敲前)

森の上のこの神楽殿
いそがしくのぼりて立てば
かくこうはめぐりてどよみ
松風に血もさやぐなり

野のきはみ北をのぞめば
紫波の城の二本の杉
かゞやきて黄ばめるものは
そが上の麦熟すらし

夏雲の乱れとぶ下、
青々と山なみははせ、
丘らしき形もあれど
君が棲むまちは見えざり

来しかたは夢より淡く
行くすゑは影より遠し
けふもまた病む人を守り
つゝがなくきみやあるらん

うすくらき古着の店を
ほしいまゝはなれ来しかば
ひとり居て祖父や怒らん
いざ帰りわびて笑はん

うちどよみまた鳥啼けば
そこはかと君や恋しき
などてかく恋しきものぞ
松の風日に鳴るものを



(先駆形短歌「B」179〜180)

     ※

179
山上の木にかこまれし神楽殿
鳥どよみなけば
われかなしむも。

179a
志和の城の麦熟すらし
その黄いろ
きみ居るそらの
こなたに明し

179b
神楽殿
のぼれば鳥のなきどよみ
いよよに君を
恋ひわたるかも

     ※

180
はだしにて
よるの線路をはせきたり
汽車に行き逢へり
その窓は明るく。