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〔歳は世紀に曾って見ぬ〕

歳は世紀に曾って見ぬ
石竹いろと湿潤を
人は三年のひでりゆゑ
食むべき糧もなしといふ

稲かの青き槍の葉は
多く倒れてまた起たず
六条さては四角なる
麦はかじろく空穂しぬ

このとききみは千万の
人の糧もてかの原に
亜鉛のいらか丹を塗りて
いでゆの町をなすといふ

この代あらば野はもって
千年の計をなすべきに
徒衣ぜい食のやかららに
賤舞の園を供すとか

(本文=下書稿2推敲後)



(下書稿2推敲前)

歳は世紀に曾って見ぬ
石竹いろと湿潤と
人は続けるひでりゆゑ
食むべき糧もなしといふ

稲かの青き槍の葉や
六条さては四角なる
麦はかじろく空穂しぬ

このとききみは百万の
人の糧もてかの原に
亜鉛のいらか丹を塗りて
いでゆの町をなすといふ

この代あらば野はもって
千年の計をなすべきに
徒衣ぜい食のやからをば
集めたりとて何かせん



(下書稿1推敲後)

遊園地工作

歳は世紀に曾って見ぬ
石竹いろと湿潤と
稲は倒れてまた起たず
あるはましろく空穂せん
六条さては四角なる
芒うつくしき麦類は
畑地のなかにうちこぼれ
或は穂のまゝ芽ぐめるを
このとき公は百万の
人の糧もてかの赤き
亜塩の屋根をうちならべ
湯あみの館をつくるとか



(下書稿1推敲前)

西暦一千九百二十七年に於る
当イーハトーボ地方の夏は
世紀に入りて曾って見ざりしほどの
恐ろしき石竹いろと湿潤さとを示したり
為に当地方の主作物、稲かの青き槍の葉は
常年に比し既に四割も徒長を示し
そのあるものは疾く倒れてまた起たず
そのあるものは花なく白き空穂を被たり
またかの六条あるひは四角
芒うつくしき麦類は
畑地のなかに早くもこぼれ
或は穂のまゝ芽をいだし
そのとりいれはいそがしく
またたよりなく見えにけり



(先駆形口語詩「一〇三三 悪意」)

一〇三三

悪意

一九二七、四、八、

夜のあひだに吹き寄せられた黒雲が、
山地を登る日に焼けて、
凄まじくも暗い朝になった
今日の遊園地の設計には、
あの悪魔ふうした雲のへりの、
鼠と赤をつかってやらう、
口をひらいた魚のかたちのアンテリナムか
いやらしいハーデイフロックス
さういふものを使ってやらう
食ふものもないこの県で
百万からの金も入れ
結局魔窟を拵えあげる、
そこにはふさふ色調である