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田園迷信

十の蜂舎が成りしとき
よき園成さば必ずや
鬼ぞうかがふといましめし
かしらかむろのひとありき

山はかすみてめくるめき
桐むらさきに燃ゆるころ
その農園の扉を過ぎて
苺需要めしをとめあり

そのひとひるはひねもすを
風にガラスの点を播き
夜はよもすがらなやましき
うらみの歌をうたひけり

若きあるじはひとひらの
白銅をもて帰れるに
をとめしづかにつぶやきて
この園われが園といふ

かくてくわりんの実は黄ばみ
池にぬなはの枯るゝころ
をみなとなりしそのをとめ
園をば町に売りてけり

(本文=下書稿2推敲後)



(下書稿2推敲前)

田園迷信

果樹のまはりは直角の
水銀の池めぐらかし
十の蜂舎が成りしころ
よき家成さば必らずや
鬼ぞうかがふといましめぬ
かしらかむろのひとありき
山はかすみてめくるめき
桐むらさきに燃ゆるころ
その農園の扉をば
おとづれて来しをとめあり
そのひとひるはひねもすを
風にガラスの点を播き
夜はなやましき歌よもすがら
かくて稲羽をつけしころ
人は全身うち敗れ
をとめは遠く去りてけり



(下書稿1)

九百二十六年の
桃の花よりやゝ過ぎて
その玢岩の渓谷に
化の鳥一羽渡り来ぬ
鳥は黄いろの膨らみて
膠朧質のピンクの春に
かゞやくこしやうさてはまた
ガラスの点をふりまきて
夜ごとに訴へかなしめる
なやましき声をあげわたし
ひるも林や丘丘や
スカイラインの紺にうたひて
ひとびとの粗暴なる力を盗みあつめ
あたかも太陽に熱したる棘の成れるころ
東の青くけぶれる海へ飛び去りにけり
かくてたばこの燃えて立ち
稲がちいさき鳥の羽をつけしとき
人々全身 赤き斑点に冒された
胸やせなかに大なる穴を明けられて
死したりもありそのまゝに
息のみをつくミイラとなれるもありにけり



(先駆形口語詩「〔桃いろの〕」)

一〇四五

〔桃いろの〕

一九二七、四、二四、

桃いろの
アガーチスな春より少しおくれて
ぼんやりした黄いろの巨きな鳥がやってきた
それはそこいらのまだつめたい空間に
光るペッパーの点々をふりまき
またひとびとの粗暴なちからを盗みあつめて
ちやうど太陽に熟した黄金の棘ができるころ
東の方へ飛んで行ったのだ
さうして
この歳はもうみんなには
仕事のなかに芸術を感じ得る
その力強さが喪はれてゐた