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〔しののめ春の鴇の火を〕

しののめ春の鴇の火を
アルペン農の汗に燃し
縄と菩提樹皮にうちよそひ
風とひかりにちかひせり
  四月は風のかぐはしく
  雲かげ原を超えくれば
  雪解けの 草をわたる
黒玢岩メラフアイアーの高原に
生しののめの火を燃せり

島わの遠き潮騒えを
森のうつゝのなかに聴き、
羊歯のしげみの奥に
青き椿の実をとりぬ、
  黒潮の香のくるはしく
  東風にいぶきを吹き寄れば
  百千鳥すだきいづる
三原の山に燃ゆる火の
なかばは雲にとざされぬ



(下書稿3推敲前)

しののめ春の鴇の火を
アルペン農の汗に燃し
縄と菩提樹皮にちかひせり
風とひかりにちかひせり
  四月は風のかぐはしく
  雲かげ原を超えくれば
  雪解けの 草をわたる
黒玢岩メラフアイアーの高原に
生しののめの火を燃せり

島わの遠き潮騒えを
森のうつゝのなかに聴き
まひるもけぶる下蔭に
青き椿の実をとりぬ
  南の香のかぐはしく
  潮のひかりを吹きくれば
  百千鳥すだきいづる
三原の山に燃ゆる火の
なかばは雲にとざされぬ



(下書稿2推敲後)

しののめ春のときの火を
アルペン農の汗に燃し
縄と菩提皮にうちよそひ
風とひかりにちかひせり
  四月は風のかぐはしく
  雲かげ原をこえくれば
  雪どけの風をわたる
黒玢岩の高原に
しののめ春の火をもせり

島わの遠き潮騒えを
うつゝの森のなかに聴き
まひるもけぶる下蔭に
にくらき下影に
青き椿の実をとりぬ
  南の香のかぐはしく
  潮のひかりを吹きくれば
  百千鳥すだきなけり
三原の山に燃ゆる火の
なかばは雲に鎖されぬ



(下書稿2推敲前)

島わの遠き潮騒えを
まひるの森のなかに聴き
うつゝにくらき下影に
青き椿の実をとれり
  南の香のかぐはしく
  ぬるき潮を吹きくれば
  百千鳥つどひ
  すだきなけり
三原の山に燃ゆる火の
なかばは雲に鎖されぬ



(下書稿1推敲後)

大島開墾者の歌

島わもあらき潮騒えを
アルペン農の夢椿の森のなかに聴き
縄と鍬とにうちよそひ
青き椿の実をとれり

二月は西の風受けて
潮ぬるみ草もかほる

三原の山に燃ゆる火の
なかばは雲に鎖されぬ



(下書稿1推敲前=「三原三部手帳」Bの4・5頁)

大島開墾者の歌

島わの しらき潮騒えを
アルペン農の夢に聴き
縄とかつぎにうちよそひ
風とひかりにちかひせり

二月は風のかぐはしく
雲かげ原を超えくれば
椿咲き橙もかほる

三原の山に燃ゆる火の
なかばは雲に鎖されぬ


※下書稿2には、1928年6月の上京(大島旅行)時のメモがある。

※なお、本稿の逐次形として、洋紙一枚に赤インクで書かれた下書 稿4があるが、用紙が詩稿用紙と異なるので、「〔島わにあらき潮 騒を〕」として六巻「補遺詩篇2」に収める。