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文語詩100/92

〔日本球根商会が〕

日本球根商会が、      よきものなりと販りこせば、
いたつきびとは窓ごとに、  春きたらばとねがひけり。

夜すがら温き春雨に、    風信子華の十六は、
黒き葡萄と噴きいでて、   雫かゞやきむらがりぬ。

さもまがつびのすがたして、 あまりにくらきいろなれば、
朝焼けうつすいちいちの、  窓はむなしくとざされつ。

七面鳥はさまよひて、    ゴブルゴブルとあげつらひ、
小き看護は窓に来て、    あなやなにぞといぶかりぬ。



(下書稿2推敲後)

病院の花壇

日本球根商会が
よきものなりと販りこせば
いたつきびとは窓ごとに
春きたらばとねがひけり

よすがらぬるき春雨に
風信子華の十六は
黒き葡萄を噴きいでて
雫ひかりてむらがりぬ

さもまがつみのすがたして
あまりにくらきいろなれば
朝焼けうつすいちいちの
窓はむなしくとざされつ

七面鳥はさまよひて
ゴブルゴブルとあげつらひ
小き看護は窓に来て
あなやなにぞといぶかりぬ



(下書稿2推敲前)

病院の花壇

日本球根商会が
よきものなりと販りてける
風信子華のひといろは
黒き葡萄を噴きいでて
よすがらぬるき春雨に
雫ひかりてむらがれば
七面鳥はさまよひて
ゴブルゴブルとあげつらひ
いたつきびとは窓に来て
あなやなにぞといぶかりぬ



(下書稿1推敲後)

石灰岩のモザイクに
濃き空碧と紅色の
ヒヤシンスもて二つらの
折線をこそおもひけり

さもあらばあれ東京の
日本球根商会は
たゞひといろの黒紫色
春の吊旗を送りけり

夜もすがらなる春雨に
色さへあせず香もたかみ
しずくひかりてさながらに
黒き葡萄のすがたなり

七面鳥はさまよひて
ゴブルゴブルとあげつらひ
いたつきびとは窓にして
あなやなにぞといぶかれり

方にへりどる大理石の
モザイクゆゑにヒアシント
藍とはなだをもとめしは
はや雪ちかき朝なりし

日本球根商会が
ときおくれぬと送り来し
花はこのごろひといろの
春の吊旗と咲ききでぬ



(下書稿1推敲前)

水いろと
石灰岩のモザイクの
まことに方に白ければ
濃き空碧と紅色と

求めしものをこれやこの
日本球根商会は
たゞひといろの黒紫色
春の吊旗を送りけり

夜もすがらなる春雨に
色もひかりもあせずして
かほりいよいよ高ければ
そのしずくひからしめ
むらがればにはかに惜しきすがたかな

辛くもおきしいたつきびとは
あなやなにぞといぶかりつ
医師はかほりをいやしみぬ

濃き空碧を織りぬべき
藍とはなだを編まん
ヒアシンスをぞもとめしか
そのときすでに十月の冬なりき

ときおくれぬと東京の
日本球根商会は
たゞひといろの花の族
春の吊旗を送りきぬ



(下書稿1断片)

夜の雨の温きによりて
その暗紫いよよに深く
芬芬峻烈とも云ひつべき
風信子草ヒヤシンス〕花茎十六



(先駆形口語詩「病院の花壇」)

病院の花壇

夜どほしの温い雨にも色あせず
あんまり暗く薫りも高い
この十六のヒアシンス

まっ白な石灰岩の方形のなかへ
水いろと濃い空碧で
すっきりとした折線を
二つ組まうとおもったのに
東京農産商会は
このまっ黒な春の吊旗を送ってよこし
みんなはむしろいぶかしさうにながめてゐる
今朝は截って
春の水を湛えたコップにさし
各科と事務所へ三つづつ
院長室へ一本配り
こゝへは白いキャンデタフトを播きつけやう
つめくさの芽もいちめんそろってのびだしたし
廊下の向ふで七面鳥は
もいちどゴブルゴブルといふ
女学校ではピアノの音
にはかにかっと陽がさしてくる

鍬とコップをとりに行かう