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文語詩100/91

〔小きメリヤス塩の魚〕

小きメリヤス塩の魚、  藻草花菓子烏賊の脳、
雲の縮れの重りきて、  風すざまじく歳暮るゝ。

はかなきなれや夕さりを、  なほほかぶかと物おもひ、
街をうづめて行きまどふ、  みのらぬ村の家長たち。



(定稿推敲前)

小きメリヤス塩の魚、  藻草花菓子烏賊の脳、
雲の縮れの重りきて、  風すざまじく歳暮るゝ。

はかなきなれや暮れそめて  なほほかぶかと物おもひ、
街をうづめて行きまどふ、  みのらぬ村の家長たち。



(下書稿4推敲後)

戸主

歪める陶器烏賊の脳
小きシャツや赤き足袋
露店はならぶ雪の雲

楽隊の音がたぴしに
はるかの町の角行きて
おもむろに来る青のバス

みのれる村のをのこらは
魚こもづつみ一つきの
酒にほこりてみな去りぬ

ひでりつゞける村人は
いくたび町を行きかへて
罪あるもののすがたなり

さびしきかなやたそがれて
こらのすがたを胸にして
なほ行きまどふ戸主の群



(下書稿4推敲前)

戸主

歪める陶器烏賊の脳
小きシャツや赤き足袋
露店はならぶ雪の雲

楽隊の音がたぴしに
はるかの町の角行きて
おもむろに来る青のバス

みのれる村のをのこらは
魚こもづつみ一つきの
(五、六字分空白)みな去りにけり

ひでりつゞける村人は
いくたび町を行きかへて
罪あるもののすがたなり

さびしきかなやたそがれて
こらのすがたを胸にして
なほ行きまどふ戸主の群



(下書稿3推敲後)

ちゞれたる雲のま下に
塩鮭や歪める陶器
烏賊の脳ゴム沓とシャツ
はるばると露店はならぶ

こもづつむ魚をになひ
つきの酒に熱りて
たゞ気負ひ人分けくるは
みなかみの田を植えしひと

活動の楽隊の音
がたぴしに雲にひゞけと
この峡の野に生きぬべき
そのみちをいまは知らずも

雪しろき街をうずめて
ひでりゆゑ稔らぬ村の
家長たちさびしく惑ひ
たそがれはせまりきたりぬ



(下書稿3推敲前)

ちゞれたる雲のま下に
塩鮭や歪める陶器
烏賊の脳茶絣とシャツ
はるばると露店はならぶ

けらと縄藁沓をつけ
ひでりゆゑ得ざりし村の
家長らのかなしく惑ひ
しみじみとたそがれとなる



(下書稿2推敲後)

ちゞれたる雲のま下に
塩鮭や 歪める陶器
はるばると露店はならぶ

みのらぬ村の家長たち
雲あえかなる臘月の
まちをうづめて行きまどふ

小きメリヤス塩の魚
藻草花菓子烏賊の脳
露店ははるにならびたり

雲の縮れの重りきて
風すさまじく歳くるゝ
裏町あたりめぐるらし

あはれはかなし暮れそめて
なほふかぶかと行きまどふ
みのらぬ村の家長たち



(下書稿2推敲前)

ちゞれたる雲のま下に
塩鮭や 歪める陶器
はるばると露店はならぶ

みのらぬ村の家長たち
ふかぶかおもひ旧臘の
まちをうづめて行きまどふ

歪める陶器烏賊の脳
小きメリヤス塩の魚
露店はならび客はなき

雲の縮れの重りきて
楽隊の音がたぴしに
はるかのまちをめぐるらし

はかなきかなや暮れそめて
なほ物おもひ行きまどふ
みのらぬ村の家長たち



(下書稿1推敲後)

ちゞれたる雲のま下に
塩鮭や 歪める陶器
烏賊の脳シャツと茶絣
はるばると露店はならぶ
けらと縄藁沓をつけ
家長らのかなしく行ける
そがなかを行きなづめるは
店店の古き自転車
活動の遠き楽隊
がたぴしに雲にひゞけば
太き剣さげし巡査や
開空の家長の会は
しみじみと夕暮れに入る



(下書稿1推敲前)

はるばると露店はならび
烏賊の脳 歪める陶器
塩鮭や 数の子ふのり
茶絣とメリヤスのシャツ
ちゞれたる雲のま下を
魚類の 包みをになひ
うちきほひ人押し分けて
米とれる農夫は急ぎ
けらや縄藁沓を吐き
かなしげに行きかふものは
堰下の旱地の農夫
活動の遠き楽隊は
がたぴしに雲にひゞけば
太き剣さげし巡査や
開空の家長の会は
しみじみと夕暮れに入る