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文語詩100/88

中尊寺

七重の舎利の小塔に、  蓋なすや緑の燐光。

大盗は銀のかたびら、  おろがむとまづ膝だてば、
赭のまなこたゞつぶらにて、  もろの肱映えかゞやけり。

手触れ得ず十字燐光、  大盗は礼してゆる。



(下書稿3)

中尊寺

じゅうの舎利の小塔ことう
がいなすや緑の燐光

大盗は銀のかたびら
おろがむとまづ膝だてば
しゃのまなこたゞつぶらにて
もろの肱えかゞやけり

手触たふれ得ね舎利の宝塔
大盗はれいしてゆる。



(下書稿2推敲後)

山上の堂のくらやみ
七重の舎利塔を
ほのに浮く青の燐光

大盗は銀の帷子
隠身の黒に装ひつ
双の手を胸に結べば
そのまなこつぶらの黄にて
その肱は照りかゞやけり

手触れ得ず青の燐光
大盗はまたおろがみつ
きとばかり歯軋り消ゆる



(下書稿2推敲前)

七重の舎利の小塔を
うち繞る青き燐光

大盗は銀の帷子
隠身の黒に装ひつ
双の手を胸に結びつ
そのまなこつぶらに黄にて
その肱は照りかゞやけり

手触れ得ず青の燐光
大盗は退りて消ゆる



(下書稿1「冬のスケッチ」第6葉第1章)

ぬすまんとして立ち膝し、
その膝、光りかゞやけり

ぬすみ得ず 十字燐光
やがていのりて消えにけり。



※この葉の第1行に本稿の1行が書かれており、本稿が下書稿としての完全形でなく、前半の書かれている紙葉が喪失している可能性が強い。現存「冬のスケッチ」のどの紙葉も、本稿前半に当たる詩句を持つものはない。