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文語詩100/86

〔乾かぬ赤きチョークもて〕

乾かぬ赤きチョークもて、  文を抹して教頭は、
いらかを覆ふ黒雲を、    めがねうつろに息づきぬ。

さびしきすさびするゆゑに、 ぬかほの青き善吉ら、
そらの輻射の六月を、    声なく惨と仰ぎたれ。



(下書稿4推敲後)

乾かぬ赤きチョークもて
文を抹して教頭は
いらかを覆ふ黒雲を
めがねうつろに息づきぬ

さびしきすさびするゆゑに
ぬかほの青き善吉ら
そらの輻射の六月を
声なく惨と仰ぎたれ



(下書稿4推敲前)

乾かぬ赤きチョークもて
文を抹して教頭は
いらかを覆ふ黒雲に
めがねうつろにそばたちつ

さびしきすさびするゆゑに
ぬかほの青き善吉ら
そらの輻射の六月を
声なく惨と仰ぎたれ



(下書稿3推敲後)

ひとりの生徒ボールドに
短き英の文書きつ
教頭おもて青じろく
窓べに立ちて見まもれる

南の紺の地平より
黒雲怪しき縞なして
白堊ひゞいりよごれたる
いらかを低くながれたり

生徒礼してしりぞけば
さとはぎしりて教頭の
乾かぬ赤きチョークもて
文をあらゝに抹したり

をぞのまくらきボーロドは
しゅうしゅうとしてうちなげき
ま夏に入らん生徒らは
たゞさんとしてながめたり



(下書稿3推敲前)

ひとりの生徒ボールドに
短き英の文書きて
教頭おもて青じろく
窓べに立ちて見まもれる

南の紺の地平より
黒雲怪しき縞なして
白堊ひゞいりよごれたる
いらかを低くながれたり

生徒礼してしりぞけば
頭をいたみ教頭の
文をあらゝに抹したり

あはれ乾かぬ赤チョーク
をぞのまくらきボーロドは
しゅうしゅうとしてうちなげき
ま夏に入らん生徒らは
たゞさんとしてながめたり



(下書稿2推敲後)

南の紺の地平より
黒雲怪しき縞なして
幾冬タール黄に染めし
白堊の館に垂れこめぬ

短き英の文書きて
一人壇を下りくれば
教頭瞳〔まみ〕をうちそぼち
頬あほじろく見まもれる

乾かぬ赤のチョークして
教頭文を抹すれば
さも傷負へる黒板を
生徒声なく見まもれる



(下書稿2推敲前)

南の紺の地平より
雲怪しき縞なして
川三つつどふこの市の
幾冬のタール黄に染めし
館に低くたれこめぬ

一人壇にそびらかして
短き英の文書けば
教頭は今日額おもく
頬あほじろく見まもりぬ

生徒礼して下り来れば
教頭赤のチョークして
一線描けばあなあやし
チョークのインクなほぬれて
をぞにまくろきボールドは
まあかき傷を受けにつゝ
たゞ湫々となきしかば
生徒ら惨と見まもりぬ



(下書稿1推敲後)

教頭黒板を截る

このくらき
雲垂れし日を
いかなればとて
さはぬれて赤きチョークに
黒板を傷つくるや



(下書稿1推敲前)

このくらき
雲垂れし日を
いかなればとて
さはぬれし赤きチョークにて
黒板を傷つくるや



(先駆形短歌 歌稿B 32)

32
黒板は赤き傷うけ雲垂れてうすくらき日をすゝり泣くなり。

32a
この学士英語はとあれあやつれどかゝるなめげのしわざもぞする。