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文語詩100/82

氷上

月のたはむれ薫ゆるころ、 氷は冴えてをちこちに、 さゞめきしげくなりにけり。
をさけび走る町のこら、 高張白くつらねたる、 明治女塾の舎生たち。
さてはにはかに現はれて、 ひたすらうしろすべりする、 黒き毛剃の庶務課長。
死火山の列雪青く、 よき貴人の死蝋とも、 星の蜘蛛来て網はけり。



(下書稿5推敲後2)

月のたはむれかほるころ
氷は冴えてをちこちに
さゞめきしげくなりにけり

をさけび走る町のこら
高張白くつらねたる
明治女塾の舎生たち

さてはにはかにあらはれて
ひたすらうしろすべりする
黒き毛剃の庶務課長

死火山の列雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
星の蜘蛛来て網はけり



(下書稿5推敲後1)

月のたはむれかほるころ
氷は冴えてをちこちに
さゞめきしげくなりにけり

高張あまた立てつらね
影いかめしくそばだてる
明治女塾の舎監たち

さてはにはかにあらはれて
ひたすらうしろすべりする
黒き毛剃は知事の秘書

死火山の列雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
星の蜘蛛来て網はけり



(下書稿5推敲前)

月のたはむれかほるころ
氷は冴えてをちこちに
さゞめきしげくなりにけり

をさけび走る町のこら
こよひも知事にしたがへる
黒き毛剃のつかさたち

死火山の列雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
星の蜘蛛来て網はけり



(下書稿4推敲後)

月のたはむれかほるころ
氷は冴えてをちこちに
さざめきしげくなりにけり

死火山のつら雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
星の蜘蛛居て網吐けり



(下書稿4推敲前)

月のたはむれかほるころ
氷は冴えてをちこちに
さざめきしげくなりにけり

腕組みかはしてさてはまた
あとすべりしてはてしなき
はがねの板をい行く児ら

ことばすくなくそばだてる
黒き毛剃の一むれは
知事としたがふつかさたち

死火山のつら雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
星の蜘蛛来て網吐けり



(下書稿3推敲後2)

スケート

氷は冴えてをちこちに
さゞめきしげくなりにけり
月のたはむれかほるころ

今宵も知事にしたがひて
恐れつさては息まける
黒き毛削の課長たち

死火山の列雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
きら星の蜘蛛網吐けり



(下書稿3推敲後1)

スケート

氷は冴えてもろびとの
さゞめきしげくなりにけり
月のたはむれかほるころ

ときにたちまちいきまきて
あとすべりしてあらはれし
黒き毛削は部長なり

死火山の列雪青く
きら星の蜘蛛網吐けば
こよひは知事を見ざりける



(下書稿3推敲前)

天は氷に影置きて
遠きはくらくまぢかには
月のたはむれかほるなり

白き首巻ほこらしく
わづかにすぐの線描くは
岩手師範の生徒なり

はじめは知事としたがひて
辛く氷をわたりける
若き学務の課長なり

死火山のつら雪青く
よき貴人あでびとの死蝋とも
星の蜘蛛来て網なせり



(下書稿2)

火星の月にこくすてふ
こよひは氷ははやなりて
かぐろき天をうつしたれ

たちまち蟹のかたちして
もぱらにうしろすべりする
毛皮まとへる紳士あり

そはもと知事にしたがひて
辛く氷を渡りける
学務部長と知られたり

死火山のつら雪青く
よき貴人の死蝋とも
星の蜘蛛もて網したり



(下書稿1推敲後)

県庁の給仕水をば入れしとか
この弦月と火星をうつし
鋼の板はいま成りて
首巻つけし学生ら
をちこち三五滑り居る

さあり西ぞらうち亘す
乳頭山 源太森
葛根田の上のあたりには
なほ青くして古めける
水あかりこそあえかなれ

ときにたちまちあらはれて
月夜の蟹のかたちして
もぱらにうしろすべりする
毛皮まとへる紳士あり

  (知るべしこれぞ部長なり
   はじめは知事にしたがひて
   辛く氷を渡りしに
   もはや人なみのわざに厭き
   もぱらにうしろすべりする)

葛根田谷の上なる
水あかりはや納まりて
あはれ見よ月あかり照る
死火山のかの一列は
年若くよき貴人の
死蝋もうち見えたるを
星の蜘蛛上に網せり



(下書稿1推敲前)

県庁の給仕水をば入れしとか
この弦月と火星をうつし
鋼の板はいま成りて
首巻つけし学生ら
をちこち三五滑り居る

さあり西ぞらうち亘す
乳頭山 源太森
葛根田の上のあたりには
なほ青くして古めける
水あかりこそあえかなれ

ときにたちまちあらはれて
月夜の蟹のかたちして
もぱらにうしろすべりする
毛皮まとへる紳士あり

  (知るべしこれぞ部長なり
   はじめは知事にしたがひて
   辛く氷を渡りしに
   もはや人なみのわざに厭き
   もぱらにうしろすべりする)

師範の寄宿の方に
自修云ふラッパの鳴りて
灯まれなる公園下を
濁み声に歌ふ声あり
紳士いま興いよよにて
さらにまたあとすべりする

葛根田谷の上なる
水あかりはや納まりて
あはれ見よ月あかり照る
死火山のかの一列は
年若きその貴人の
死蝋とも見ゆるならずや
星の蜘蛛上に網せり