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文語詩100/65

悍馬

厩肥こえをはらひてその馬の、 まなこは変るべにの竜、
けいけい碧きびいどろの、 天をあがきてとらんとす。

黝き管藻の袍はねて、   叩きそだたく封介に、
雲ののろしはとゞろきて、 こぶしの花もけむるなり。



(下書稿推敲後)

悍馬

厩肥こえをはらひてその馬の
まなこはかはるべにの竜
けいけい碧きびいどろの
天をあがきてとらんとす

黝き管藻の袍はねて
そだたき叩く封介に
のろしの雲のとゞろきて
こぶしの花もけむるなり



(下書稿推敲前)

厩肥こえをふるひてその馬の まなこは巌き紅の竜
青びいどろにはりわたす
天を あがきとらんとす

黝き管藻の袍はねて
叩きそだく封介に
雲ののろしはうちあがり
こぶしの花ぞひかりけり



(口語詩「一〇四六 悍馬」下書稿3からの抽出部分)

封介の厩肥こえつけ馬が、
にはかにぱっとはねあがる
眼が紅く 竜に変って
青びいどろの春の天を
あせって掻いてとらうとする

黝い管藻の袍を着た
封介が
押へる押へる押へてゐる
  雲ののろしは四方に騰り
  萱草芽を出す崖腹に
  マグノリアの花と霞の青



(先駆形口語詩「一〇四六 悍馬」)

一〇四六

悍馬

一九二七、四、二五、

封介の厩肥こえつけ馬がにはかにぱっとはねあがる
眼が紅く 龍に変って
青びいどろの春の天を
あせって掻いてとらうとする
厩肥が一っつぽろっとこぼれ
封介は両手でたづなをしっかり押へ
半分どてへ押つける
馬は二三度なほあがいて
やうやく巨きな頭をさげ
龍になるのをあきらめた
  雲ののろしは四方に騰り
  萱草芽を出す崖腹に
  マグノリアの花と霞の青
ひとの馬のあばれるのを
なにもそんなに見なくてもいゝ
おまへの鍬がひかったので
馬がこんなにおどろいたのだと
こぼれ厩肥にかゞみながら
封介はしづかにうらんで云ふ
封介は一昨日から
くらい厩で熱くむっとする
何百把かの厩肥をしばって
すっかりむしゃくしゃしてゐるのだ