目次へ  縦書き

文語詩100/64

涅槃堂

鳥らの羽音重げに、  雪はなほ降りやまぬらし。

わがみぬち火はなほ燃えて、  しんしんと堂は埋るゝ。

風鳴りて松のさざめき、  またしばし飛びかふ鳥や。

雪の山また雪の丘、  五輪塔 数をしらずも。



(定稿推敲前)

涅槃堂

黒鳥か羽音重げに、  雪はなほ降りやまぬらし。

わが命なほ今朝燃えて、  しんしんと堂は埋るゝ。

風鳴りて松のさざめき、  またしばし飛びかふ鳥や。

雪の山また雪の丘、  五輪塔 数をしらずも。



(下書稿3)

涅槃堂

黒鳥か羽音重げに
雪はなほ降りやまぬらし

けさしなほわが得も死なず
人知らに堂はうもるゝ

風鳴りて松のさゞめき
またしばしとびかふ鳥や

雪の山また雪の丘
五輪塔数をしらずも



(下書稿2推敲後2)

黒鳥か羽音重げに
雪はなほ降りやまぬらし

みちのくのこのはてにして
人しらにはてんとすれや

雪の山また雪の丘
五輪塔数をしらずも

風鳴りて、松のさゞめき
またしばし鳥はとびかふ



(下書稿2推敲後1)

三昧堂

黒鳥か羽音重げに
雪はなほ降りやまぬらし
廊遠き鬼子母堂には
同学ともらいまあけ看経かんきん

けさしなほわが得も死なず
人知らに堂はうもるゝ
みちのくのこのはてにして
人しらにはてんとすれや

よろぼひて窓にのぞまば
松なみのけむりにも似ん
雪の山また雪の丘
いづちともみちははるはし

灯を赤きかの街にして
事ありと人はそしれど
何ぞかの盤石み声
おお皐諦師をまもりませ

松の枝あえかに折れて
どと落ちし雪の音より
ともらいまつとめを了へて
しづかにも廊を来るらし



(下書稿2推敲前)

涅槃堂

よべよりの雪なほやまず
松が枝も重りにけらし
棟遠き羅漢堂には
衆僧いま盤若を転ず

定省を父母に欠き
養ひを弟になさで
ひたすらに求むる道の
疾みてなほ現前し来ず

起き出でて北をのぞまじ
松なみのけむりにも似ん
雪の山また雪の丘
ふるさとのいとゞ遠しも

かの町の淫れをみなと
事ありと人は云へども
なほしかの大悲のひとみ
おゝ難陀師をまもりませ

松の枝かすかに枝れて
どと落ちし雪の音あり
衆僧いま看経を終へ
こなたへととめくるごとし



(下書稿1「雨ニモマケズ手帳」131、132頁)

朋らいま羅漢堂にて
朝づとめ了るらしきに
われはしも疾みて得立たね
むなしくも冬に喘げり

かの町の淫れをみなに
事ありと朋ら云へども
なほしかの大悲の瞳
おゝ阿難師をまもりませ

雪の山また雪の丘
ふるさとははるかに遠く
草くらきよみぢの原を
ふみわけんみちは知らずも

羅漢堂看経を終へ
座禅儀は足の音にまじり
衆僧いま廊を伝へば