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文語詩100/6

保線工手

まみの毛皮を耳にはめ、   シャブロの束に指組みて、

うつろふ窓の雪のさま、  黄なるまなこに泛べたり。


雪をおとして立つ鳥に、  妻がけはひのしるければ、

仄かに笑まふたまゆらを、 松は畳めり風のそら。



(「女性岩手」発表形)

保線工手

まみの毛皮を耳にはめ
シャブロのたばに指組みて
うつろふ車窓まどの雪のさま
黄なるひとみうかべたり

雪をおとして立つ鳥に
妻がけはひのるければ
ほのかにまふたまゆらを
松は畳めり風のそら



(下書稿3推敲後)

保線工手

まみの毛皮を耳にはめ
シャブロの束に指組みて
うつろふ窓の雪のさま
黄なるまなこに泛べつゝ

雪をおとして立つ鳥に
妻がけはひのしるければ
笑まひかそけきたまゆらを
松は畳めり風のそら



(下書稿3推敲前)

鉄道工夫

まみの毛皮を耳にはめ
うつろふ窓の雪のさま
黄なるまなこに泛べつゝ
シャブロの束をしづめたり

雪をはらひて立つ鳥に
妻がけはひのしるけれど
持ちの丁場のはやちかき
松は畳めり風のそら



(下書稿2推敲後)

鉄道工夫

まみの毛皮を耳にはめ
うつろふ窓の雪のさま
黄なるまなこに泛べつゝ
シャブロの束をまさぐれり

雪をおとして舞ふ鳥に
妻がけはひのしるけれど
持ちの丁場のはや近き
松は畳みぬ風のそら



(下書稿2推敲前)

鉄道工夫

まみの毛皮を窓にあて
松ひょろながき雪ぞらを
錫のまなこに見送れり

丁場の堺ちかくして
 (肥りし妻と雪の鳥)
松はもうつる風のそら



(下書稿1推敲後)

鉄道工夫

まみの毛皮を耳にはめ
松ひょろ長き雪ぞらを
褐のまなこに泛べたり

肥りし妻と雪の鳥
しばしおもひをかすめつゝ
待ちの丁場のはや近き



(下書稿1推敲前)

鉄道工夫

まみの毛皮を耳にはめ
ガラスをはねて行く風や
松ひょろ長き雪ぞらを
褐のまなこに泛べたれ

肥りし妻と雪の鳥
しばしおもひをかすめつゝ
待ちの丁場ははや近く



(先駆形口語詩「四一〇 車中」)

四一〇

車中

一九二五、二、一五、

ばしゃばしゃした狸の毛を耳にはめ
黒いしゃっぽもきちんとかぶり
まなこにうつろの影をうかべ
   ……肥った妻と雪の鳥……
凛として
ここらの水底の窓ぎはに腰かけてゐる
ひとりの鉄道工夫である
   ……風が水より稠密で
     水と氷は互に遷る
     稲沼原の二月ころ……
なめらかででこぼこの窓硝子は
しろく澱んだ雪ぞらと
ひょろ長い松とをうつす