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文語詩100/51

短夜

屋台を引きて帰りくる、  目あかし町の夜なかすぎ、
うつは数ふるそのひまに、 もやは浅葱とかはりけり。

みづから塗れる伯林青べれんすの、 むらをさびしく苦笑ひ、
胡桃覆へる石屋根に、   いまぞねむれと入り行きぬ。



(下書稿2推敲後)

短夜

屋台を引きて帰りくる
目あかし町の夜なかすぎ
うつは数ふるそのひまに
もやははなだとかはりけり

みづから塗れるruby>伯林青べれんす
むらをさびしくにがわらひ
胡桃覆へる石屋根に
いまぞねむれと入り行きぬ



(下書稿2推敲前)

短夜

屋台を牽きて帰りくる
目あかし町の夜なかすぎ
うつは数ふるそのひまに
もやは浅葱とかはりけり

みづから塗れるべれんすの
むらをさびしくにがわらひ
胡桃覆へる石屋根に
いまぞねむれと入り行きぬ



(下書稿1推敲後)

短夜

夜台をひきて帰りくる
さむらひ町の夜中すぎ
うつは数ふるそのひまに
もやは浅葱となりにけり

みづから塗れる伯林青ベレンス
むらをさびしくにがわらひ
胡桃覆へる石屋根に
いまはとびかりねむるなり



(下書稿1推敲前)

夏夜

夜台をひきて帰りくる
同心町の夜あけがた
浅葱のもやや淡き灯や
黄ばらをけぶす東ぞら

みづから塗れる伯林青ベレンス
むらをさびしくにがわらひ
胡桃覆へる石屋根の
下にいまこそうまゐせん



(先駆形口語詩「〔同心町の夜あけがた〕」)

一〇四二

〔同心町の夜あけがた〕

一九二七、四、二一、

同心町の夜あけがた
一列の淡い電燈
春めいた浅葱いろしたもやのなかから
ぼんやりけぶる東のそらの
海泡石のこっちの方を
馬をひいてわたくしにならび
町をさしてあるきながら
程吉はまた横眼でみる
わたくしのレアカーのなかの
青い雪菜が原因ならば
それは一種の嫉視であるが
乾いて軽く明日は消える
切りとってきた六本の
ヒアシンスの穂が原因ならば
それもなかばは嫉視であって
わたくしはそれを作らなければそれで済む
どんな奇怪な考が
わたくしにあるかをはかりかねて
さういふふうに見るならば
それは懼れて見るといふ
わたくしはもっと明らかに物を云ひ
あたり前にしばらく行動すれば
間もなくそれは消えるであらう
われわれ学校を出て来たもの
われわれ町に育ったもの
われわれ月給をとったことのあるもの
それ全体への疑ひや
漠然とした反感ならば
容易にこれは抜き得ない
  向ふの坂の下り口で
  犬が三疋じゃれてゐる
  子供が一人ぽろっと出る
  あすこまで行けば
  あのこどもが
  わたくしのヒアシンスの花を
  呉れ呉れといって叫ぶのは
  いつもの朝の恒例である
見給へ新らしい伯林青を
じぶんでこてこて塗りあげて
置きすてられたその屋台店の主人は
あの胡桃の木の枝をひろげる
裏の小さな石屋根の下で
これからねむるのではないか