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文語詩100/40

紀念写真

学生壇を並び立ち、   教授助教授みな座して、
つめたき風の聖餐を、  かしこみ呼ぶと見えにけり。

(あな虹立てり降るべしや)
(さなりかしこはしぐるらし)
 ……あな虹立てり降るべしや……
 ……さなりかしこはしぐるらし……

写真師台を見まはして、 ひとりに面をあげしめぬ。

時しもあれやさんとして、身を顫はする学のをさ
雪刷く山の目もあやに、 たゞさんとして身を顫ふ。

 ……それをののかんそのことの、 ゆゑはにはかに推し得ね、
   大礼服にかくばかり、    美しき効果をなさんこと、
   いづちの邦の文献か、    よく録しつるものあらん……

しかも手練てだれの写真師が、 三秒ひらく大レンズ、
千の瞳のおのおのに、   朝の虹こそ宿りけれ。



(定稿推敲前)

紀念写真

学生壇を並び立ち、   教授助教授みな座して、
つめたき風の聖餐を、  かしこみ待つと見えにけり。

(あな虹立てり降るべしや)
(さなりかしこはしぐるらし)
 ……あな虹立てり降るべしや……
 ……さなりかしこはしぐるらし……

写真師台を見まはして、 ひとりに面をあげしめぬ。

時しもあれやさんとして、身を顫はする学のをさ
雪刷く山の目もあやに、 たゞさんらんとわななける。

 ……それをののかんそのことの、 ゆゑはにはかに推し得ね、
   大礼服にかくばかり、    美しき効果をなさんこと、
   いづちの邦の文献か、    よく録しつるものあらん……

しかも手練てだれの写真師が、 三秒ひらく大レンズ、
千の瞳のおのおのに、   朝の虹こそ宿りけれ。



(下書稿2推敲後)

紀念写真

学生壇を並び立ち
教授助教授みな座して
つめたき風の聖餐を
かしこみ呼ぶと見えにけり

(あな虹立てり降るべしや)
(さなりかしこはしぐるらし)
 ……あな虹立てり降るべしや……
 ……さなりかしこはしぐるらし……
写真師 台を見まはして
ひとりに面をあげしめぬ

時しもあれやさんとして
身を顫はする学のをさ
……それをののかんそのことの
  ゆゑはにはかに推し得ね
  大礼服にかくばかり
  美しき効果をなさんこと
  いづちの邦の文献か
  よく録しつるものあらん……

たゞさんらんとわなゝける
しかも手なれの写真師が
風位と地磁をはからひて
三秒ひらく大レンズ
千の瞳の おのおのに
朝の虹こそ宿りけれ



(下書稿2推敲前)

紀念写真

ことさら館の北の射影かげ
亜塩いろなす榍体に
学生壇を並び立ち
教授助教授みな座して
つめたき風の聖餐を
かしこみ呼ぶと見えにけり

(あな虹立てり降るべしや)
(さなりかしこは降れるらし)
 ……あな虹立てり降るべしや……
 ……さなりかしこは降れるらし……
写真師 右手を虹にあげ
壇を見わたしみまもれば
こはそもいかに 校長の
たゞさんらんとうち顫ふ

それ身ぞ顫ふそのことの
ゆゑはにはかに推し得ね
大礼服にかくばかり
美しき効果をなさんとは
いづこの国の文献か
よく録したるものあらん

しかも熟練てなれの写真師が
風位と地磁をはからひて
三秒ひらく 大レンズ
千の瞳の おのおのは
霧と雪刷く 火山列
朝の虹こそ うつりけれ



(下書稿1推敲後)

(あな虹立てり晴るべしや)
(さなり朝虹暗ければ)
……(あな虹立てり晴るべしや)
  (さなり朝虹暗ければ)……
写真師台をみまはして
一人に面をあげしめぬ

写真師壇をみまもりつ
レンズの蓋に手を置けば
こはそもいかに校長の
さんらんとしてうち顫ふ

 にせものの黄金をつけたるこの国士さんらんとして風にをのゝく

それ身ぞふるふそのことの
故はにはかにわかねども
大礼服にかくばかり
美しき効果をなさんとは
いづくの国の文献か
よく記し置けるものあらん

 この国士大礼服を着けぬれば寒きさましてふるふ癖あり

さあれ気圧の漸増と
地磁の周期をはからひて
さも熟練の写真師が
三秒ひらく大レンズ
千の瞳のおのおのに
朝の虹こそうつりけれ

写真師白く息つきて
いとへりくだり礼すれば
俄かにさっとけはひして
校長もたち教授らも
みな立ちあがり学生も
百舌のごとくに散りてけり
かくてふたゝびこの原に
古きしじまは来りぬと



(下書稿1推敲前)

(そのうしろにて朗らなる
 藍の山なみはいづかたぞ
(そは七時雨 陸中と
 陸奥を堺へる地塊なり)
(げに虹立てり 晴るらんや)
(さなり朝虹 暗ければ)

写真師はっと気を充てゝ
レンズの蓋をはづさんと
さらに一たび見まはせば
こはそもいかにまなかなる
その黄金色の校長は
さんらんとしてうち顫ふ

それ身ぞふるふそのことの
故は何ともわかねども
大礼服にかくばかり
美しき効果のあらんとは
いづくの国の文献か
よく記し置けるものあらん

写真師気をばとり直し
三秒ひらくレンズには
五百の口とかゞやける
千の瞳ぞうつりける
そのおのおのの瞳には
千の虹こそ映りけり

写真師レンズ蓋なして
いとへりくだり礼すれば
俄かに何かけはひして
校長もたち教授らも
みな立ちあがり学生ら
どっと壇をば下りけり



(関連短歌 「歌稿B 379」)

379  みんなして
   写真とると台の上に
   ならべば朝の虹ひらめけり。