目次へ  縦書き

文語詩100/38

廃坑

春ちかけれど坑々の、   祠は荒れて天霧し、

事務所飯場もおしなべて、 鳥の宿りとかはりけり。


みちをながるゝ雪代に、  銹びしナイフをとりいでつ、

しばし閲してまもりびと、 さびしく水をはねこゆる。



(下書稿4)

廃坑

春ちかけれどすき々の
祠は荒れて天霧し
事務所飯場もおしなべて
鳥の宿りとかはりけり

みちをながるゝ雪代に
銹びしナイフをとりいでつ
しばしけみしてまもりびと
さびしく水をはねこゆる



(下書稿3推敲後)

春ちかけれど坑々の
祠は荒れて天霧し
事務所飯場もおしなべて
鳥の宿りとかはりけり

つつをになへるまもりびと
黄なる犬をさきだてゝ
みちをひたしてながれたる
雪げの水をいぶしみて
しばしを立ちてうらおもふ

華麗の晶をほこりける
鏡鉄鉱や水晶や
いまはむなしき水底に
赤きこいしとまじるなれ

鉱炉の屋根のがばと鳴り
黒雲峯を過ぎたれば
人はひとたび身づくろひ
さびしく水をはねこゆる



(下書稿3推敲前)

四月となれど坑々の
祠は荒れて天霧し
事務所飯場もおしなべて
鳥のすみかとかはりけり

つつをになへるまもりびと
二匹の犬をさきだてゝ
何かほのかにわらひつゝ
鋳物工場をめぐりくる

いつかなりけんこのみちに
ひとすじ鳴れる雪どけの
ながれいぶしみわたるとき
鉱炉の屋根のがばと鳴りたる



(下書稿2推敲後3)

四月となれど坑々すきすき
祠は荒れて天霧し

事務所飯場もおしなべて
鳥のすみかとかはりけり

二匹の犬をさきだてつ
銃をになへるその坑夫
ほのかにわらひ巡り来て
鋳物工場をのぞき行く

一すじ鳴れる雪どけの
水をわたりて過ぎ行けば
鉱炉の屋根のガバと鳴りたる



(下書稿2推敲後2)

四月は来れどこの山の
祠は荒れて天霧し
雪山山にあえかなり

飯場事務所をおしなべて
鳥のすみかとかはりけり

二匹の犬をさきだてつ
銃をになへるその坑夫
ほのかにわらひめぐり来て
鋳物工場をのぞき行く

一すじ鳴れる雪どけの
水をわたりて過ぎ行けば
鉱炉の屋根のガバと鳴りたる



(下書稿2推敲後1)

そら白くして天霧し
めぐれる山もひそめるに
古き鉱炉のほとりをば
一人の鉱夫その妻と
ほのかにわらひ歩み来て
一すじ鳴れる雪どけの
水をわたりて過ぎ行けば
二匹の犬もはせ行きて
鉱炉の屋根のガバと鳴りたる



(下書稿2推敲前)

そら白くして天霧し
町には音も影もなし
古き鉱炉のほとりをば
雪融の水は流れたり
一人の鉱夫その妻と
ほのかにわらひ歩み来て
水をわたりて過ぎ行きけり
わがもとむるはまことのことば
雨の中なる真言なり



(下書稿1「冬のスケッチ 第12葉第3章・第4章)

  ※

 

わがもとむるはまことのことば
雨の中なる真言なり
あめにぬれ 停車場の扉をひらきしに
風またしとゞ吹き出でて
雲さへちぎりおとされぬ。

 

  ※

 

崖下の
旧式鉱炉のほとりにて
一人の坑夫
妻ときたるに行きあへり
みちには雪げの水ながれ
二疋の犬もはせ来る
されど 空白くして天霧し
町に一つの音もなけれど