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文語詩100/35

早池峯山巓

石絨アスペスト脈なまぬるみ、    苔しろきさが巌にして
いはかゞみひそかに熟し、 ブリューベル露はひかりぬ。


八重の雲遠くたゝへて、  西東はてを知らねば、
白堊紀の古きわだつみ、  なほこゝにありわぶごとし。



(定稿推敲前)

早池峯山巓

石絨アスペスト脈なまぬるみ、    苔しろきさが巌にして
いはかゞみひそかに熟し、 ブリューベル露をはらひぬ。

八重の雲ひかりたゝへて、  西東はてを知らねば、
白堊紀の古きわだつみ、  なほこゝにありわぶごとし。



(下書稿3推敲後)

早池峯山巓

アスペスト脈なまぬるみ
苔しろきさが巌にして
いはかゞみひそかに熟し
ブリューベル露をひかりぬ

八重の雲ひかりたゝへて
西東はてを知らねば
白堊紀の古きわだつみ
なほこゝにありわぶごとし



(下書稿3推敲前)

早池峯山巓

アスペスト脈なまぬるみ
苔しろきさが巌にして
ひげ白き地学博士はまどろむなり

日は白く四方雲わきて
わが師夢みるそのことの
いないぶかしくも恐ろしきかな

その頬は頬をもて
額はさらに額もて
恐らく怪しき山塊と
酒にまみれしをみなごと
二つの夢を見るさまなりし



(下書稿2推敲後)

政客(写真に題す)

石絨アスペストすじなまぬるみ、
苔しろきさが巌にして、
魔法瓶いだきてねむる
そのかみのくにちのをとど

八重の雲四方に湧きたち
鳥行かぬましろきそらに
頬は頬舌は舌もて
老ひとのあゝそぬむなれ



(下書稿2推敲前)

政客(写真に題す)

石絨アスペストすじなまぬるみ、
苔しろきさが巌にして、
その頬は頬もてぬめみ、
その舌は舌にゆめみし

銅に刷りけん紙と
フーゼルの酒にやぶれて
八重の雲たゞよひ来れば
日はしろくそらによどみて
山は云ふ去らずば撃たん



(下書稿1推敲後)

その岩山のいたゞきに
白きうす日のなかにして
ひるげを終り図を投げて
わが師つかれてまどろみき
われその面をうちのぞみ
せなかも寒く立ちすくむ
その頬は頬をもて
額はさらに額もて
恐らく怪しき山塊と
酒にまみれしをみなごと
二つの夢を見るさまなりし



(下書稿1推敲前)

わが師つかれてまどろめるに
われそが面をうちのぞみ
せなかも寒く立ちすくみたり
そは頬は頬をもて
額はさらに額もて
異なる夢を見たるらし



(関連する口語詩「早池峰山巓」)

一八一

早池峰山巓

一九二四、八、一七、

あやしい鉄の隈取りや
数の苔から彩られ
また捕虜岩ゼノリスの浮彫と
石絨の神経を懸ける
この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
釣鐘人参ブリューベルのいちいちの鐘もふるえる
みんなは木綿ゆふの白衣をつけて
南は青いはひ松のなだらや
北は渦巻く雲の髪
草穂やいはかがみの花の間を
ちぎらすやうな冽たい風に
眼もうるうるして吹きながら
くびすを次いで攀ってくる
九旬にあまる旱天ひでりつゞきの焦燥や
夏蚕飼育の辛苦を了へて
よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
たゞいっしんに登ってくる
  ……向ふではあたらしいぼそぼその雲が
    まっ白な火になって燃える……
ここはこけももとはなさくうめばちさう
かすかな岩の輻射もあれば
雲のレモンのにほひもする