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文語詩100/19

肖像

朝のテニスをなげかひて、  額はたかし 雪の風。


入りて原簿を閲すれば、 その手砒硫の香にけぶる。



(下書稿3推敲後)

M氏肖像

入りて原簿をけみすれば
その手砒硫の香にける

朝のテニスをなげかひて
額は貢し雪の風



(下書稿3推敲前)

M氏肖像

げんの名簿をけみすれば
その手砒硫の香にけぶり
まなこ星河の黄を看たり

朝のテニスを憤り
額は高し雪の風



(下書稿2)

病院王

その手はけぶる砒硫の香
ひたひたかし雪の風

朝のテニスを憤り
まばゆく末の針を見る



(口語詩へ改作)

〔松の針はいま白光に溶ける〕

松の針はいま白光に溶ける。
(尊い金はなゝめにながれ……)
なぜテニスをやるか。
おれの額がこんなに高くなったのに。

日輪雲に没し給へば
雲はたしかに白金環だ。
松の実とその松の枝は
黒くってはっきりしてゐる。

雲がとければ日は水銀
天盤も砕けてゆれる
どうして、どうしておまへは泣くか
緑の針が波だつのに。

横雲が来れば雲は灼ける、
あいつは何といふ馬鹿だ。
横雲が行けば日は光燿
郡役所の屋根も近い。

(あゝ修羅のなかをたゆたひ
また青々とかなしむ。)

おれの手はかれ草のにほひ
眼には黄いろの天の川
黄水晶の砂利でも渡って見せやう
空間も一つではない。

風のひのきをてらし
太陽は今落ちて行く
春の透明の中から
遠いことばが身を責める。

朝はかれ草のどてを
黄いろのマントがひるがへり
ひるすぎはやなぎ並木を
上席書記がわらって来る。



(下書稿1)

松の針

溶けてまばゆき松の針
ながれととほき雪の風
  人のテニスはいきどほろ
  われのひたひはいと高し
白金ハクキンの雲日をとりて
あきらけしかも松の針
  わが手はけぶる砒硫の香
  まなこはむなし銀河の黄
水銀の盤雲去りて
つやゝかに奔れ松の針