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文語詩100/101

〔燈を紅き町の家より〕

燈を紅き町の家より、     いつはりの電話来れば、
(うみべより売られしその子) あはたゞし白木のひのき。

雪の面に低く霧して、     桑の群影ひくなかを、
あゝ鈍びし二重のマント、   銅版の紙片をおもふ。



(下書稿2推敲後)

燈を紅き町の家より
いつはりの電話来れば
(うみべより売られしその子)
はかなしや白木のひのき

雪の面に低く霧して
桑の群影ひくなかを
あゝ鈍びし二重のマント
そこはかと帰り行く書記



(下書稿2推敲前)

燈をあかき町の家より
いつはりて電話来れば
(うみべより売られしその子)
そこはかと書記帰り行く

雪の面に低く霧して
桑の群影ひくなかを
あゝ鈍びし二重のマント
銅版の紙片をおもふ



(下書稿1推敲後)

僚友

高書記よ
電話よばへり
和賀郡の郡役所より

 和賀郡の灯ある家より
   (うみべよりうられしそのこ)
 あやしくもなまめける声
 連綿とひとをもとめぬ

 夕陽いま落ちなんとして
 ちゞれ雲四方にかゞよひ
 雪の面に低く霧して
 桑の群影をこそひけ

高書記よ簿はわがなさん
なれは去れ五時に間もなき



(下書稿1推敲前)

電話

高書記よ
電話よばへり
和賀郡の郡役所より

高書記よ用は済みしや
和賀郡の郡役所より
あやしくもなまめける声
わぶごとくうらむがごとく
連綿ときみを呼びしを

高書記よかの日見しとき
みどりなる髪うつくしく
かんざしの房など垂れて
もろびとの瞳にたえず
切なげに身をもだえける
かのをみななれに迷ひて
うらぶれてかしこに去りき

ききけらくなはそのはじめ
欺きてをみなとなして
たちまちに いと情なくて
あらたなるをみな漁りぬ

このまひる公署のなかに
なが声を求めて来しは
うらみてか はたいかりてか
かにかくに ながつれなさに
胸にあまれる故によるらん

高書記よ なが父母は
耕して清く 食へり
をみなごの その父母も
耕せどまた耕せど
炊餐のけむりに足らず
をみなごは 売られ来りぬ

高書記よ なれもしつひに
紅燈の とりこなりせば
いざ行きてかのひとを訪へ
ひとふしの 歌をばひさぎ
わらひ売る むれのなかにも
あきらけき 道はあるなれ