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文語詩50/46

玉蜀黍きみを播きやめ環にならべ〕

玉蜀黍きみを播きやめ環にならべ、 開所の祭近ければ
さんさ踊りをさらひせん。」   技手農婦らに令しけり。

野は野のかぎりめくるめく、   青きかすみのなかにして、
まひるをひとらうちおどる、   袖をかざしてうちおどる。

さあれひんがし一つらの、    うこんざくらをせなにして、
所長中佐は胸たかく、      野面はるかにのぞみゐる。

「いそぎひれふせ、ひざまづけ、 みじろがざれ。」と技手云へば、
種子やまくらんいこふらん、   ひとらかすみにうごくともなし。



(下書稿2推敲後)

軍馬補充部

「玉蜀黍を播きやめ環にならべ
開所の祭近ければ
さんさ踊りをさらひせん」
技手農婦らに令すらく

野は野のかぎりめくるめく
青きかすみのなかにして
まひるをひとらうちおどる
袖をかざしてうちおどる

風のねむりと流れとの
さあれひんがし一つらの
うこんざくらをせなにして
所長中佐は胸はりて
野面はるかにのぞみゐる

「いそぎひれふせひざまづけ
みじろがざれ。」と技手云へば
種子やまくらんいこふらん
ひとらかすみにうごくともなし



(下書稿2推敲前)

軍馬補充部

「なんぢら玉蜀黍の種子を置け
開所の祭近ければ
さんさ踊りをさらひせん」
技手農婦らに令しけり

山はかすみてめくるめき
野は野のかぎりしきたへの
青きかすみのなかにして
まひるをひとらうちおどる

風のねむりと流れとに
うこんざくらのうしろより
騎兵中佐は馬とめて
野面はるかにのぞみみる

「なんぢらいそぎうち屈め
しばしみじろがざれ」と技手云へば、
草や切るらん種子やまかん
ひとはかすみにうごくともなし



(下書稿1推敲後)

軍馬補充部

開所の祭近ければ
玉蜀黍の畑はうちけむる
青きかすみのなかにして
雇ひの農婦うちおどる

(3行分空白)
まひるのなかにうちおどる

雲影かはた風の影か
いくたびねむりさめたるうこん桜
馬をよくする支部長の
うこん桜を出で行きぬ

技手は令して農婦らを
ひたとばかりに踞せしめつ
草切りすらん種子や播かん
かくてもろびとうごくともなし



(下書稿1推敲前)

軍馬補充部

開所の祭近ければ
玉蜀黍の畑はうちけむる
青きかすみのなかにして
雇ひの農婦うちおどる

馬をよくする支部長の
うこん桜を出で行けば
技手は令して農婦らを
ひたとばかりに踞せしめつ



(先駆形口語詩「軍馬補充部主事」)

軍馬補充部主事

うらうらと降ってくる陽だ
うこんざくらも大きくなって
まさに老幹とも云ひつべし
花がときどき眠ったりさめたりするやうなのは
自分の馬の風のためか
あるひはうすい雲かげや
、 かげらうなぞのためだらう
よう調教に加はって
震天がもう走って居るな
膝がまだ癒り切るまい
列から出すといゝんだが
いやこゝまで来るとせいせいする
ひばりがないて
はたけが青くかすんで居る
その向ふには経塚山だ
山かならずしも青岱ならず
残雪あながちに白からずだ
五番の圃地を目的に
青塗りの播種車はしゅしゃが
から松をのろのろ縫って行くのは
まづ本部のタンクだな
いやあ、牧地となると
聯隊に居るときとはちがって
じつにかんかんたるものだ
しかしながら
このやうな浩然の大気によって
何人もだらけぬことが肝要だ
ところが何だ、あのさまは
みんなぴたっと座り居る
このまっぴるま
しかもはたけのまんなかで
さんさ踊りをやり居って
誰か命令したやうに
ぴたりとみんな座り居った
おれのかたちを見たんだな
雇ひ農婦どもの白い笠がきのこのやうだ
まだじっとしてかゞんでゐるのは
まるで野原の生蕃だ
いったい何といふ秩序だ
あすこは二十五番の圃地だ
けさ高日技手が玉蜀黍を播くとか云って
四班を率ひて行き居ったのに
このまっぴるま何ごとだ
しかもあの若ものは乗馬づぼんに
ソフトカラなどつけ居って
なかなかづ太いところがある
一番行ってどなるとするか、
大人気ないな
ははあ開所の祭りが近い
今年もやっぱり去年のやうに
各班みんな競争で
なにか踊りをやるんぢゃな
もちろん拙者の意も迎へ
衆もたのしむつもりぢゃらう
それならむろん文句はない
馬のかしらを立て直しぢゃ
粹な親分肌を見せるのは
かう云ふときにかぎるんぢゃ
さっきのうこんざくらをつんで
家内に手紙を書くとしやう