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文語詩50/4

〔温く妊みて黒雲の〕

温く妊みて黒雲の、     野ばらの藪をわたるあり、

あるひはさらにまじらひを、 求むと土を這へるあり。


からす麦かもわが播けば、  ひばりはそらにくるほしく、

ひかりのそこにもそもそと、 上着は肩をやぶるらし。


(下書稿推敲前)


温く妊みて雲のひら
野ばらの藪をわたるあり
あるはあらたのまじらひを
求むと 土を這へるあり。
翔け行く雲のそら高み
からすむぎかもわが播けば、
光の
そらくるほしくひばりなき
ひかりのそこにもそもそと
上着の肩をやぶるなり


(下書稿推敲後)


妊みて黒き雲のひら
野ばらの藪をわたるあり
あるはさらにまじらひを
求むと 土を這へるあり。
からすむぎかもわが播けば、
ひばりはそらにくるほしく
そらくるほしくひばりなき
ひかりのそこにもそもそと
上着は肩をやぶるらし


(先駆形口語詩)


心象スケッチ、
     退耕

黒い雲が温く妊んで
一きれ一きれ
野ばらの藪を渉って行く。
そのあるものは
あらたな交会を望んで
ほとんど地面を這ふばかり
その間を縫って
ひとはオートの種子をまく
いきなり船が下流から出る
ぼろぼろの南京袋で帆をはって
山の鉛の溶けてきた
いっぱいの黒い流れを
からの酒樽をいくつかつけ
睡さや春にさからって
雲に吹かれて
のろのろとのぼってくれば
金貨を護送する兵隊のやうに
人が三人乗ってゐる
一人はともに膝をかゝえ
二人は岸のはたけや藪を見ながら
身構えをして立ってゐる
みんなずゐぶんいやな眼だ
じぶんだけ放蕩するだけ放蕩して
それでも不平で仕方ないとでもいふ風
憎悪の瞳も結構ながら
あんなのをいくら集めたところで
あらたな文化ができはしない
どんより澱む光のなかで
上着の裾がもそもそやぶけ
どんどん翔ける雲の上で
ひばりがくるほしくないてゐる