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文語詩50/37

萎花

酒精のかほり硝銀の、    肌膚灼くにほひしかもあれ、
大展覧の花むらは、     夏夜あざらに息づきぬ。

そは牛飼ひの商ひの、    はた鉄うてるもろ人の、
さこそつちかひはぐくみし、 四百の花のラムプなり。

声さやかなるをとめらは、  おのおのよきに票を投げ、
高木検事もホップ噛む、   にがきわらひを頬になしき。

卓をめぐりて会長が、    メダルを懸くる午前二時、
カクタス、ショウをおしなべて、花はうつゝもあらざりき。



(定稿推敲前)

萎花

酒精のかほり硝銀の、     肌膚灼くにほひしかもあれ、
大展覧の花むらは、      夏夜さやかに息づきぬ。

そは牛飼ひつ商ひつ、     はた鉄うてるもろ人の、
さこそつちかひはぐくみし、  四百の花のラムプなり。

声さやかなるをとめらは、   おのおのよきに票を投げ、
辨護士もホップ噛む、     にがきわらひを頬になしき。

卓をめぐりて会長が、     メダルを懸くる午前二時、
カクタス、ショウをおしなべて、花はうつゝもあらざりき。



(下書稿3推敲後)

萎花

酒精のかほり硝銀の
肌膚灼くにほひしかもあれ
リネンと瓶と花の影
花は夏夜をいきづきぬ

そは牛飼ひつ商ひつ
はた鉄うてるもろ人々の
さこそつちかひそだてたる
四百の花のラムプなり

声さやかなるをとめらは
おのおの花に票を投げ
団辨護士もホップ噛む
にがきわらひを頬になしき

卓をめぐりて会長が
メダルをかけし午前二時
カクタスショウをおしなべて
花にけはひはあらざりき



(下書稿3推敲前)

ダリア展覧会

酒精のかほり硝鉄の
肌膚灼くにほひしかもあれ
リネンを埋め影織りて
花は夏夜をいきづきし

そは牛飼ひつ商ひつ
はた鉄うてるもろ人々の
さこそつちかひそだてたる
四百の花のラムプなり

声さやかなるをとめらは
おのおの花に票を投げ
団辨護士もホップ噛む
にがきわらひを頬になしき

青き六角シェバリエー
倒れしまゝに芽ばえしつ
穂抽きし稲はその首に
病を得たる夏なりき



(下書稿1、2は「断片」のため省略)



(先駆形口語詩「一〇八六 ダリア品評会席上」)

一〇八六

ダリア品評会席上

一九二七、八、十六、

西暦一千九百二十七年に於ける
当イーハトーボ地方の夏は
この世紀に入ってから曾って見ないほどの
恐ろしい石竹いろと湿潤さを示しました
為に当地方での主作物 oryza sativa
稲、あの青い槍の穂は
常年に比し既に四割も徒長を来し
そのあるものは既に倒れてまた起きず
あるものは花なく白き空穂を得ました
またかの六角シェバリェー、
芒うつくしい Horadium 大麦の類の穂は
畑地のなかで或は脱落或は穂のまゝ発芽を来し
そのとりいれはげにも心せはしくあはたゞしいかぎりでありました
これらのすき間を埋めるために
諸氏は同じく湿潤にして高温な
気層のなかから、
四百の異るラムプの種類、
Dahlia variaviris の花を集めて
この色淡い凝灰岩の建物の
石英燈の照明と浸液アルコールのかほりの中
窓よりは遥かに熱帯風の赤い門火の列をのぞみ
白いリネンで覆はれた卓につらねて
その花の品位を
われら公衆の投票に問はれました
すでに得点は数へられ
その品等は定められたのであります故に
いまわたくしの嗜好をはなれ
これらの花が何故然く大なる点を得たのであるか
その原因を考へまする
第百一号これはまことに二位を得たのでありますが
かつその形はありふれたデコラチープでありますが
更にし細にその色を看よ
そは何色とは名づけるべきか
赤、黄、白、黒、紫 褐のあらゆるものをとかしつつ
ひとり黎明のごとくゆるやかにかなしく思索する
この花にもしそが望む大なる爆発を許すとすれば
或ひは新たな巨きな科学のしばらく許す水銀いろか
或ひは新たな巨大な信仰のその未知な情熱の色が
容易に豫期を許さぬのであります
まことにこの花に対する投票者を検しましても
真しなる労農党の委員諸氏
法科並びに宗教大学の学生諸君から
クリスチャンT氏農学校校長N氏を連ねて
云はゞ一千九百二十年代の
新たに来るべき世界に対する
希望の象徴としてこの花を見たのであります
これに次では
第百四十 これは何たるつゝましく
やさしい支那の歌妓であらう
それは焦るゝ葡萄紅なる情熱を
各カクタスの瓣の基部にひそめて
よぢれた花の尖端は
伝統による奇怪な歌詞を叙べるのであります
更にその雪白にして至って寧ろ見えざる水色を示すものは
その情熱の清い昇華を示すものであります
もしこの町が
未だに近代文明によって而く混乱せられざる
遠野或はヤルカンドであらば
恐らくこの花が一位の投票を得たのでありませう
更に深赤第三百五。
この花こそはかの窓の外
今宵門並に燃す熱帯インダス地方
たえず動ける赤い火輪を示します

最后に一言重ねますれば
今日の投票を得たる花には
一も完成されたるものがないのであります
完成されざるがまゝにそは次次に分解し
すでに今夕は花もその瓣の尖端を酸素に冒され
茲数日のうちには消えると思はれますが
すでに今日まで第四次限のなかに
可成な軌跡を刻み来ったものであります