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文語詩50/34

雪の宿

ぬさをかざして山つ祇、  舞ふはぶらいの町の書記、
うなじはかなくへいとるは、 峡には一のうためなり。

をさけびたけり足ぶみて、 をどりめぐれるすがたゆゑ、
老いし博士はくし郡長こおりおさ、    やゝ凄凉のおもひなり。

月や出でにし雪青み、   をちこち犬の吠ゆるころ、
舞ひを納めてひれふしつ、 罪乞ふさまにみじろがず。

あなや否とよ立てきみと、 博士が云へばたちまちに、
けりはねあがり山つ祇、  をみなをとりて消えうせぬ。



(下書稿4推敲後)

雪の宿

ぬさをかざして山つ祇
舞ふはぶらいの町の書記、
うなじはかなくへいとるは
峡には一のうためなり

をさけびたけりあしぶみて
めぐりをどれるすがたゆゑ
老いし博士や郡長
やゝ凄凉のおもひあり

月や出でにし雪青み
をちこち犬の吠ゆるころ
舞ひを納めてひれふしつ
罪乞ふさまにみじろがず

あなや否とよ起てきみと
博士が云へばたちまちに
けりはねあがり山つ祇
をみなをとりて消えうせぬ



(下書稿4推敲前)

雪の宿

ぬさをかざして山つ祇
舞ふはぶらいの町の書記
ひとりはかなくへいとるは
峡には一のうためなり

二つのこたつおのおのに
四人の技手の酒くむと
老いたる博士郡おさ
みかんそゞろに剥きたると

祇のすさびはさながらに
巌もとばんそのけはひ
外の面は月の出(一字不明)らん
をちこち吠ゆる雪の犬

舞ひを納めてひれふしつ
罪乞ふさまに 否 否 と
博士が云へば たちまちに
をみなをとりて消えうせぬ



(下書稿3推敲後)

雪の宿

ぬさをかざして山つ祇
舞ふはぶらいの町の書記
ひとりはかなくへいとるは
峡には一の歌女なり

しきゐをはねてこたつあり
老いし博士とその弟子と
郡のおさのみたりして
ちさきみかんをむけるなり

ふたつのこたつおのおのに
みたりの技手の酒くむと
老いし博士と郡長
みかんそゞろに剥きたると

祇はすさびてうちあれて
木々もぬかなんそのけはひ
とのもは月のいでしらん
をちこち吠ゆる雪の犬

舞ひを了りて町の書記
罪乞ふごとくひれふしつ
ひといぶかればたちまちに
をみなをとりて消え失せぬ



(下書稿3推敲前)

雪の宿

こたつかこみていよいよに
酒のむ技手はみたりなり
ぬさをかざして山つ祇
舞ふはぶらいの町の書記

ひとりはかなくへいもちて
書記のあしもと見まもるは
この山峡のいくたりに
一とよばるゝ歌女なり

しきゐをはねてこたつあり
老いし博士とその弟子と
郡のおさのみたりして
ちさきみかんをむけるなり

(ひるはなべてのはざまより
田つくりびとのうちつどひ
あしたは北の分校に
たばこののし葉きそふてふ)

組合村のをさきたり
旅のつかれをねぎらへば
博士は地図を按じ云ふ
施肥の調査ぞ急務なる

郡の長はこのひまに
つかさの型のわらひして
品評会の式辞をば
その隣人にもとめたり

(二十日の月のいでしらん
格子の影のほの青み
ひとのあのとのやゝ冴えて
をちこち犬の吠え出づる)

舞ひを了りし町の書記
博士のもとに走り来て
両手をつかへひれふして
罪あるごとくみじろがず

いぶかりみもるもろびとに
たちまちおこるつむじかぜ
書記はをみなをひっさげて
はやく外のもに消え失せぬ



(下書稿2推敲後)

雪の宿

こたつかこみていよいよに
さけのむ技手はみたりなり
ぬさをきかざして山つ祇
まふはぶらいの町の書記

この山峡のいくたりに
一とよばるゝうたひめは
うなじはかなくへいもちて
書記のあしもと見まもれり

しきゐをはねてこたつあり
老いし博士とその弟子と郡の長のみたりにて
みかんしづかにむけるなり

組合村の長きたり
たびのつかれをねぎらへば
博士は地図を按じ云ふ
施肥の調査ぞ急務なれ

郡の長はむづかしき
司の型のわらひして
たばこの会の式辞をば
博士の弟子にもとめたり

(二十日の月のいでしらん
格子の影のほの青み
ひとのあのとのやゝ冴えて
をちこち犬の吠えいづる)

舞ひを終りし町の書記
博士のもとに走り来て
両手をつかへひれふして
罪待つごとくみじろがず

いぶかりのぞむもろびとに
たちまちおこるつむじかぜ
書記はをみなをひっさげて
早くとのもに消えうせぬ



(下書稿2推敲前)

雪の宿

こたつかこみていよいよに
さけのむ技手はみたりなり
たゝきかざして山つ祇
舞ふは無頼の町の書記

はかなきさまにへいもちて
書記のあしもと見まもるは
この山峡にながれきて
一とよばるゝ歌女うためなり

しきゐをはねてこなたには
老いし博士とその弟子と郡の長のみたりにて

郡の長はいと古き
つかさの型のわらひして
たばこの会の式辞をば
博士の弟子にもとめたり

  この時月やいでしらん
  あしだの音のいや冴えて
  をちこち吠ゆる犬もあり



(下書稿1推敲後)

雪の宿

技手らかなたのこたつ囲みて
なほちびちびと酒呑むなり
無頼なりてふの町書記は
白縞うち袴きたゝきかざし
やゝすがめして山神を舞へば
この町に三人てふ妓の
はかなきさまに見まもれる

こなたのこたつ郡長は
まことや古き警察型の
あやしきわらひを頬にうかべ
明日水上にありといふ
葉たばこの品評会の
式辞を強いてとひとに求むる

ひげ硬くしてはだれなる
博士土性の図をひろげ
こたつに入らず膝つける
組合村の長に云ふ
 たゞ要すなれ施肥の調査を

まことに立ちて戸をひらけ
月は二十日をうちゆがみ
みかげの尾根を出でたれば
街は雪青白く咲けるがごとく
犬の吠えたる三四あり

このときに書記舞ひ終へて
博士のもとににぢり来て
罪待つさまに手をつかへ
うち伏して やがて俄かに立ちあがり
妓をひっさげて
嵐のごとくこそ外の面に去れる



(下書稿1推敲前)

雪の宿

技手たちはこたつ囲みて
ちびちびとなほ酒呑めば
画描くてふの役場の書記は
山神の神楽のまねす

郡長は警察型の
むづかしきわらひをなして
葉たばこの品評会の
式辞をばひとに求むる

ひげ硬き博士はこなた 土性図をうち按じつゝ
膝つける村長に云ふ
「たゞ要す施肥の調査を」

このときに二十日の月は
東なる山地を出でて
外の面には雪青く咲き
痩せ犬はにはかに吠ゆる

山神のかぐらを了へて
書記低くかしらを下し
かたへなる一妓とともに
すみやかに外の面に去れり