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文語詩50/33

〔毘沙門の堂は古びて〕

毘沙門の堂は古びて、   梨白く花咲きちれば、

胸疾みてつかさをやめし、 堂守の眼やさしき。

中ぞらにうかべる雲の、  蓋やまたまりのさまなる、

川水はすべりてくらく、  草火のみほのに燃えたれ。



(下書稿3)

毘沙門の堂は古びて
梨白く花咲きちれば
胸疾みてつかさをやめし
堂守の眼やさしき

中ぞらにうかべる雲の
蓋やまたまりのさまなる
川水はすべりてくらく
草火のみほのに燃えたれ



(下書稿2推敲後)

毘沙門の堂は古びて
梨白く花咲きちりぬ

あまの邪鬼払ふと母の
みどりごを負ひて礼せる

中ぞらにうかべる雲の
ガイやまたまりのさまなる
川水はすべりてくらく
草火のみほのに燃えたれ



(下書稿2推敲前)

おこりあるみどりごを負ひ
そらしろく桜はうつり
川水はすべりてくらし

うら青き草火のなかに
毘沙門の像は年経て
梨白くはな咲きちりぬ

夜ごときてみどり児を圧す
あまの邪鬼押へたまへと
いくそたび母はぬかづく

中ぞらにうかべる雲の
ガイやまた椀のさまして
みどりごのはてをうらなふ



(下書稿1推敲後)

マドンナ像のさまなして
母みどり児をうちいだけば
そらしろくして桜は遷り
川は十里をすべりて暗し

をちこちの小祠祀れる
幾丈の毘沙門像の
うら青き草火のなかに
はや千の春を経ぬれば
梨白く花咲きちりぬ

中ぞらにうかべる雲の
蓋やまた椀のさまして
みどりごを占ふといふ



(下書稿1推敲前)

マドンナ像のさまなして
母みどり児をうちいだけば
そらしろくして桜は遷り
川は十里をすべりて暗し

をちこち小祠に祀れる像は
をのもにまことの宝ととなへ
わづかにながるゝ草火のはてに
梨またま白く花咲きちりぬ

中ぞうかべるひとひらの雲は
蓋とも見えたる椀とも見ゆる
その児の末をば占ふに似たり



(先駆形口語詩「一三九 夏」)

一三九
     夏
                     一九二四、五、二三

木の芽が油緑や喪神青にほころび
あちこち四角な畑には
桐が睡たく咲きだせば
こどもをせをったかみさんたちが
毘沙門天にたてまつる
赤や黄いろの幡をもち
きみかげさうの空谷や
たゞれたやうに鳥のなく
いくつもの緩ゆるい峠を越える