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文語詩50/30

〔あな雪か 屠者のひとりは〕

「あな雪か。」屠者のひとりは、 みなかみの闇をすかしぬ。

車押すみたりはうみて、     えらひなく橋板ふみぬ。

「雉なりき青く流れし。」    声またもわぶるがごとき。

落合に水の声して、       老いの屠者たゞ舌打ちぬ。



(定稿推敲前)

「あな雪か。」屠者のひとりは、 みなかみの闇をすかしぬ。

車押すみたりはうみて、     えらひなく橋板ふみぬ。

「雉なりき青く流れし。」    屠者の声わぶるがごとき。

落合に鴨の声して、       老いの屠者たゞ舌打ちぬ。



(下書稿3推敲後)

「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみの闇をすかしぬ

車押すみたりはうみ
えらひなく橋板ふみぬ

「山鳥よ青く流るは」
屠者の声わぶるがごとき

車押す老いのもろびと
えらひなくたゞ舌打ちぬ。



(下書稿3推敲前)

「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみの闇をすかしぬ

車押すみたりはうみ
えらひなく橋板ふみぬ

「山鳥よ青く流れし」
車押す屠主はいかりぬ

車押す老いのもろびと
えらひなくたゞ舌打ちぬ。



(下書稿2推敲後)

「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみのやみをすかしぬ

車押すみたりは倦み
えらひなくたゞあしぶみぬ

「山鳥よ青く流るは」
車押すひとりは答ふ



(下書稿2推敲前)

天霧す夜のさなかを
車ひき 橋わたる群

「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみのそらをすかしぬ

車押すみたりは倦み
えらひなくたゞ霧ふれり

「山鳥か青びかりせし」
かのひとり謝するに似たり



(下書稿1推敲後「冬のスケッチ」第25葉右半第1章)

天霧らす夜のさなかを
白き巾かしらに巻きて
と者二人橋を来れり
霧雨の黒きかなたに
一すじの青びかりあり
「あな雪か」一人は立ちて
いぶかれるかたちをなしぬ
「いなそらよ落ちものこれる
たそがれの青のひとひら」
一人やゝ倦みたるこはね
かの一人ほのかにわらひ
落合に鷺鳴きにけり



(下書稿1推敲前「冬のスケッチ」第25葉右半第1章)

きりあめのよるの中より
一すじ西の青びかり、
はじめは雪とあざわらひ
びがては知りつ落ちのこり
薄明穹のひとかけと
ほのかにわらひ人行けり