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文語詩50/28

〔林の中の柴小屋に〕

林の中の柴小屋に、 醸し成りたる濁り酒、 一筒汲みて帰り来し、
むかし誉れの神童は、 面青膨れて眼ひかり、 秋はかたむく山里を、
どてら着て立つ風の中。 西は縮れて雲傷み、 青き大野のあちこちに、
雨かとそゝぐ日のしめり、 こなたは古りし苗代の、 刈敷朽ちぬと水黝き、
なべて丘にも林にも、 ただ鳴る松の声なれば、 あはれさびしと我家の、
門立ち入りて白壁も、 落ちし土蔵の奥二階、 梨の葉かざす窓べにて、
筒のなかばを傾けて、 その歯に風を吸ひつつも、 しばしをしんとものおもひ、
夜に日をかけて工み来し、 いかさまさいをぞ手にとりにける。



(下書稿3推敲後)

林の中の柴小屋に、 醸し成りたる濁り酒
一筒汲みて帰り来し
むかし誉れの神童は
面青膨れて眼ひかり
秋はかたむく山里を
     どてら着て立つ風の中
西は縮れて雲傷み
青き大野のあちこちに
雨かとそゝぐ日のひかり
こなたは古りし苗代の
刈敷朽ちぬと水黝き
なべて丘にも林にも
ただ松が枝の声なれば
あはれさびしと我家の
門うち入りて白壁も
落ちし土蔵の奥二階
梨の葉かざす窓べにて
 筒のなかばを傾けて
 しばしをしんとものおもひ
 夜を日をかけて工み来し
   いかさま賽をぞ手にとりにけり



(下書稿3推敲前)

林の中の柴小屋に、 醸し成りたる濁り酒
一筒汲みて帰り来し
むかし誉れの神童は
面青膨れて眼ひかり
秋はかたむく山里を
     どてら着て立つ風の中
西は縮れて雲傷み
青き大野のあちこちに
雨かとそゝぐ日のひかり
これは古り来し苗代の
刈敷朽ちぬと水黝き
なべて丘にも林にも
ただ鳴る松の声なれば
あはれさびしと我家なる
門うち入りて白壁も
やれし土蔵の奥二階
梨の葉かざす窓べにて
手すさびならね業ならね
 まづ筒なかば傾けて
 夜を日をかけて彫り出でし
   いかさま賽をぞ手にとりにけり



(下書稿2推敲後)

面青膨れて眼ひかり
どてら着て立つ風の中

西日した降る苗代は
刈敷朽ちぬと水黒き



(下書稿2推敲前)

面青膨れて眼弱く
どてら着て立つ風の中

西日した降る苗代は
刈敷朽ちぬと水黒き



(下書稿1)

密醸

きれぎれに汽車の音飛び
楢ばやしゆふべとなれり

いつしらず はやしのへりに
熊手もつ ひとりの媼


汽車の音はるかに飛びて



(先駆形口語詩「密醸」)

密醸

汽車のひゞきがきれぎれ飛んで
酸っぱくうらさむいこの夕がた
楢の林の前に
ひどく猫背のおぱあさんが
熊手にすがって立ってゐる
右手をかざして空をみる
それから何かを恐れるやうに
ごく慎重にあたりを見て
こっそり林へはいって行く
あともうかさとも音はせず
汽車のひゞきが遠くで湧いて
灰いろの雲がばしゃばしゃとぷ