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文語詩50/13

〔そのとき酒代つくると〕

そのとき酒代つくると、  つまはまた裾野に出でし。

そのときに重瞳のは、  はやくまた闇を奔りし。

柏原風とゞろきて、    さはしぎら遠くよばひき。

馬はみな泉を去りて、   山ちかくつどひてありき。



(定稿推敲前)

そのとき酒代つくると、  つまはまた裾野に出でし。

そのときに重瞳のは、  はやくまた闇を奔りし。

柏原風とゞろきて、    さはしぎら遠く鳴らしき。

馬はみな泉を去りて、   山ちかくつどひてありぬ。



(下書稿2推敲後)

そのときに重瞳の妻
はやくまた闇を奔りし

そのときに酒代つくると
その夫はまた裾野に立ちき

柏原風とどろきて
さはしぎは遠くよばひき

馬はみな泉を去りて
山ちかくつどひてありぬ



(下書稿2推敲前)

野鳥盗りて畑荒さしめ
酒の代 つくると ひとは、
闇ふかき柏のはらに
さはしぎのふるひをききぬ

焼石のけしきたゞずみ
めざしたる馬はもとより
馬はみな泉を去りて
山ちかくうちつどふらし



(下書稿1推敲後)

野馬盗りて畑を食ましめ
酒の代つくるとつま
枝しげき小松をわけて
夜風鳴る裾野に出でぬ
重瞳のその妻は家内にしも
はやくまた暗を奔りて
みそかをの戸や叩くらん
焼岩のけしきたゞずみ
とゞろくは柏の群か
馬はみな泉を去りて
山ちかくうちつどふらし
野のはてのわづかに明き
柏みな葉をうち鳴らす
あゝあらき風のなかにも
さはしぎはよばひて鳴らす



(下書稿1推敲前)

風あらき外の面の暗に
馬盗ると夫は出で行き
重瞳の妻はあやしく
仇し男のおとづれ待てり、

いくそたび水をたゝえて
落ちてまたはねあがる音
ゐろりには榾うち燃えて
たいまつの樺をいぶせば
晩春の風のなかにて
水の音ひたすら落ちぬ